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「照ノ富士は今場所に全てを懸けていました」“元安美錦”安治川親方の7月場所総評

けっぱれ! 大相撲――2021年7月場所

note

今場所に全てを懸けていた

 照ノ富士は、治療しながらもトレーニングを続け、番付発表の前から相撲をとる稽古を開始していました。四股やすり足など基本の稽古に時間をかけて、毎日泥にまみれて稽古をしていました。その姿には鬼気迫るものがあり、やり過ぎじゃないのか? とこちらが心配になるぐらい。稽古後はしっかりケアをし、それ以外は相撲の映像を繰り返し観て、「相撲の事ばかり考えている」と言っていたものです。

 今場所に全てを懸けていました。

 しっかり稽古し、しっかりケアをする。そしてまた稽古する。その繰り返しで非常にいい状態で場所を迎えました。

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 さっそく「各関取との熱戦を期待しましょう」と言いたいところですが、早々に関脇高安が腰を痛めて休場。兄弟子にあたる元稀勢の里の荒磯親方と、稽古をみっちりしていたと聞き、期待していただけにとても残念。今場所後に荒磯部屋を起こして独立する為、兄弟子との最後の稽古になるからこそ、高安は気持ちが入り過ぎたのかなぁ。3日目から出場してきましたが、ちょっと悔やまれます。

白鵬の“瞬間的反応”はまだ健在

 それでは、仕切り直して参りましょうか。

 初日に照ノ富士は先場所で負けている遠藤との一番。綱取りのかかった初日に、冷静にどっしりと構えた取り口で危なげなく勝利。やれる事はやってきたからこそ出せる冷静さでしょう。元ヤンキースの松井秀喜選手が、バッターボックスでどっしり構えている姿を脳裏に浮かべてしまいました(笑)。

 貴景勝も、大栄翔に自分のリズムと厳しい攻めで勝利。調子が良い力士は、観ていて動きにリズムを感じるものです。

 進退をかけ、久しぶりの土俵に立った白鵬は、成長著しい明生との一番。右膝の状態を踏まえ、いつもは左足から踏み込む白鵬ですが、右足から踏み込み、がっぷり組み合う。立ち合い一歩目の足を変えるのはなかなか難しい。というより、体に染みこんでいるがため違和感が生じるのです。私は右膝の怪我をした次の場所、膝の負担を考え、もともと立ち合いは左足からいくところを痛めた右足を前に出すように変えました。たとえてみれば普段は右手で字を書くのを、左手で書くような感じです。違和感がありますよね。

 相撲に話を戻すと、明生が前に攻めて白鵬は防戦一方。土俵際、投げの打ち合いで同時に落ちていきましたが、執念で白鵬の勝ち。この微妙な一番をしっかり勝ち取る白鵬の瞬間的反応は、まだ健在でした。