クリーニング店「LIVRER YOKOHAMA」を経営する「洗濯ブラザーズ」の初の著書『日本一の洗濯屋が教える 間違いだらけの洗濯術』(アスコム)が、話題となっています。クリーニング店がなぜ、クリーニング代を劇的に節約できる洗濯術を明かしたのか。「洗濯ブラザーズ」“長男”の茂木貴史さんにお話を聞きました。(全2回の1回目。後編を読む)

茂木貴史さん

プロとして「汚れを落とさない」選択をすることもある

――茂木さんはクリーニング店を経営されておられるのですよね。コロナで在宅ワークが進み、クリーニング業界は大変だとお聞きしています。

茂木貴史(以下、茂木) かなり前から、エシカルファッションの浸透で毛皮や革製品の受注が減り、さらにウォッシャブルスーツなどカジュアルウェアが台頭してきたことで、クリーニング業界は低迷が続いていました。そこへコロナによる追い打ちで、大きな売り上げを占めていた冠婚葬祭需要が激減し、かなり厳しい状況です。

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――そんな状況のなか、「洗濯物の9割はおウチで洗える」という洗濯術を公開することは、クリーニング店にとって逆効果ではなかったのでしょうか。

茂木 クリーニング業界って、クレーム産業と言われることが多いんですよ。「クリーニングに出せば衣類が新品になって返ってくる」というイメージがあまりに定着しているので、そもそもの認識が違うよ、ということをずっとお伝えしたいと思っていました。

 クリーニング店は洗濯のプロですが、すべての汚れを落とせるわけではありません。仮に技術的に汚れやシミが落とせたとしても、少しでも生地にダメージを与えて大切な衣類を破損してしまう可能性があれば、プロとして「汚れを落とさない」選択をすることもあります。

 僕らにとって、「汚れを落とすこと」も重要ですが、同時に「洋服のアンチエイジング」も大事にしています。つまり、好きな洋服をより長く着ていただくことです。クリーニング店は魔法使いではないので、お預かりした衣類を「新品」にすることはできません。そこがうまく伝わっていないことが、クレームを招く大きな原因だと思っていました。

洗剤開発のきっかけの1つは20年来続けているサーフィン。海の汚染を防ぐため、環境負荷の低い洗剤を開発したという。

 クリーニング店を利用される方で、店主やスタッフと話をされる方ってすごく少ないと思うんです。僕らの店では受け取り時の相談や検品に時間をかけていますが、それはお気に入りの洋服を長く着ていただきたいからです。たとえば、シミがついてしまった洋服があったとしたら、たとえ生地の風合いが変わってしまってもきれいにシミを取り除きたいのか、それともシミが薄まればそれでいいのか、お客様のご希望を細かくお聞きします。

 衣類を預けてお金を払い、受け取って終わり、という絶対的な「コミュニケーション不足」がクリーニング業界の課題としてあるなかで、「洗濯のプロ」が洗濯方法を教えることで、洗濯を好きになり、クリーニング店にも興味を持ってくださる方が増えたらいいなという思いで、プロの技を公開することにしました。