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 自分の証言が、死者の尊厳を守るのであればいい、と。そして笑いながらこう続けた。

「私が死んだ時に、これまで司法解剖してきた人たちから『お前、周りの意見聞いて、忖度して、死因変えたべ!』って怒られないようにしないと」

 誤解ないように言うが、清水は、このケースのようにいつも警察や検察といがみ合っているわけではない。むしろ、日本の他の地域と比べると、北海道は死因究明で頑張っているほうだと、北海道警を評価している。

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死者の尊厳を真摯に守ろうとする法医学者

 言うまでもなく、北海道は面積が広い。九州と四国を足したより広く、東北6県より広い。そのためにどうしても死体の搬送時間がかかるという問題がある。移動だけで200㎞を超えてしまうこともあるという。また冬は雪深いため、遺体を搬送する際に、車が動けなくなったりすることもある。警察官は、命がけで死因究明をしている。そんな苦労もよくわかっている。

「他のいろんな県警の様子を聞くと、北海道警察は非常に真面目に取り組んでいると思う。人口の割に犯罪数は多くないですし、警察網もきちんと張り巡らされているので、一つ一つのケースに、誠実に取り組んでいると思います」

 少なくとも、死者の尊厳を真摯に守ろうとする法医学者がいるという点で、道民は恵まれているのかも知れない。

 清水に聞いてみた。

「これまで心を揺さぶられた解剖はありましたか?」

「いえ、解剖の時は仕事モードなので、感情が動く余裕はありません。学生時代は、まだ素人だったし、自分に解剖の責任が無かったので、児童虐待死の解剖に感情を揺さぶられたこともあった。でも今は、どの案件も『ご遺体』です。ご冥福をお祈りするばかりです。人はいつか必ず死ぬので」

 よく聞かれる質問なのか、予想通りの法医学者らしい答えだと感じたが、実は、先に触れた北海道紋別郡興部町で内縁の夫を刺してしまった女性の事件には、続きがある。

事件に翻弄され、混乱する被害者の子供

 亡くなった内縁の夫には、女子高校生の連れ子がいた。裁判が終わったあと、清水は弁護士からの要請で、彼女の“両親”にいったい何が起きたのかを事件を担当した法医学者として彼女に説明することになった。家庭内で起きた、非常に複雑な事件だったことから、心のケアのつもりでもあった。

「この女子高校生から見れば、実の父親が被害者で、内縁ではあっても母親が加害者ということになった。そして私は、法医学に基づいて、二審で母親のほうを助けたことになったわけです。子どもの立場としては複雑な状況だったために、事件について説明するために、娘さんに会いに行ったのです」

 その際、事件によって家庭が崩壊状態になってしまったことで、専門学校を目指していたこの女子高生は、勉強どころではなくなってしまったことがわかった。

「これまでも親に満足に育ててもらえなかったから、保育士になりたいんです」と、娘は言った。

 事件に翻弄され、混乱している様子を目の当たりにした清水は、「それならば私が家庭教師をしますよ」と申し出て、「もう大丈夫です」と言うまで、勉強を見続けたという。

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死体格差―異状死17万人の衝撃―

山田敏弘

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2021年9月16日 発売