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SDGs時代の子育てに自然の力が絶対的に必要なわけ

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外なる自然と内なる自然を出会わせる

「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセットではその問題を解決することはできない」とアインシュタインは言いました。つまり、近代合理主義的考え方が招いた問題に対処するには、その考え方をある程度ラディカルにつくりかえなければならない。マインドセットを組み替えるためには、従来の社会の枠組みを飛び出して、自然の一部としての生き生きとした体験を通して、自分の命の世界に少しずつ戻っていく必要があると思います。理屈じゃなくて。

 その視点からいうと、森のようちえんも、ワイルドな森の中に入っていって火起こししてみたいなサバイバル体験をすることじゃないよと、私はよく言っているわけです。それぞれの園が置かれた環境の中で、身近にある自然を最大限に生かす工夫をしてほしい。まなざし次第で、都会にも自然は豊かにある。田舎のひとたちが自然に対する感受性が強いかといったらそんなことはないですし。

 園の近くのちょっとした小川に行って、「どんな音で流れてる?」と聞いた先生がいました。「春の小川はさらさらいくよ」って歌うけど、ぜんぜんさらさらじゃない。子どもたちは「ペコポコ、ペコポコ、チョッポン!って言ってるよ」とか「チョロチョロ、ポチン!と言ってるよ」とか、いろんなことを言ってくれたんです。

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©️おおたとしまさ

 教室に帰ってからそれをぜんぶカタカナで書いて、「これ、なんて読む?」なんてやって、「あ、それ○○ちゃんが言ってたやつだ!」なんてなったら、カタカナの読み方を覚えちゃってね。そういうふうにして自然というものがこんなにリズミカルに聞こえてくるんだとわかったとたん、自然をもっと聞こうとする耳が育ちますよね。耳を澄ますなんてことが始まったとたんに、自然と響き合う準備ができますよね。

 これが自然を最大限に生かした教育法というか、森のようちえんなんだと思ってます。そうだとしたら、現代社会における森のようちえんの役割は、太陽や風や空気やそういう外なる自然と、人間の中の内なる自然を、命の世界のレベルで出会わせることなんだと思うんです。外なる自然と共鳴できる内なる自然をもっている人間を育てる教育の総称を「森のようちえん」ととらえればいいと私は考えています。

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