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「戦争」「ウンコ」「害虫駆除」…1日の投稿110件、中国“ツイ廃”総領事を40日追跡して見えたもの

「戦争」「ウンコ」「害虫駆除」…1日の投稿110件、中国“ツイ廃”総領事を40日追跡して見えたもの

2021/12/14

 こうしたアグレッシブな姿勢が当たってか、薛剣のフォロワー数はアカウント開設から約120日にして1.5万人を突破(FF比9.3%)。フォロワーたちは中国人らしきアカウントが多数を占めるとはいえ、いまや立派なアルファツイッタラーである。

 加えて11月3日には総領事館の部下に書かせたらしきヨイショ記事「走田間,下地頭,這個総領事跟你的印象很不一様(畑に出て野良仕事、この総領事は一味違う)」が外交部経由で中国の最大手ニュースサイト『新浪網』や『騰訊網』に配信され、さらに11月中旬からは駐大阪総領事館の活動が党中央機関紙『人民日報』のWEB版(人民網)に載るようになった。

 取材のなかで、中国側のエスタブリッシュメントからは、薛剣の強引な手法に眉を顰める声を聞いた。ただ、すくなくとも現時点で、彼の派手な言動は党や外交部から好意的に評価されている。

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10月30日、薛剣は大阪府岸和田市内で援農ボランティアに参加。アムネスティだけではなく本物の害虫も駆除できる総領事だ(写真左。同日の彼のツイートより)。右は後日に同じ援農ボランティアに参加してみた私。

口嫌体正直から「逆バ美肉」体制へ

 ちなみに中国駐大阪総領事館は、薛剣個人のものとは別に、2019年9月に開設された公式アカウント(@ChnConsul_osaka)も存在する。こちらは薛剣赴任前の昨年秋から今年春にかけて自作らしきアニメイラストを大量に投稿し、中国問題とは別な意味で一部の話題をさらっていた。

 当時、総領事館の公式アカウントを運営していたのは27歳前後のオタク男性外交官で、今年8月4日に薛剣のもとで慣れない欧米批判をおこなおうとしてトホホなセリフを投稿。日本のネット民のおもちゃにされる。私も文春オンラインで詳しい分析記事を投稿させてもらった(その1その2)。

8月4日、18禁ゲームをやりすぎたらしい前公式アカウント担当者・オタク外交官によるトホホ投稿。時系列から推理する限り、彼の失敗が8月11日の薛剣本人のアカウント開設と、総領事館アカウントの「中の人」交代を招いたかと思われる。

 消息筋によると、その後のオタク氏はツイッター担当から外され、「中の人」が就職3年目の女性外交官にスイッチしたという。この女性外交官は総領事の秘書で、深夜までLINEや微信(WeChat)を駆使して、やたらと外部に出たがる薛剣のアポ取りに奔走。彼女が薛剣の一部のツイートも担当しているとみられる。

 近年、VTuberの世界では、中高年男性がバーチャル世界で美少女キャラとして振る舞う「バ美肉おじさん」が話題である。しかし、中国駐大阪総領事・薛剣の戦狼外交アカウントは、53歳のおじさんの中身が(たまに)25歳のお嬢さんという「逆バ美肉」体制で運用されているようだ。

 ちなみに私の観察では、くだけた日本語で絵文字を多用する「おじさん構文」を使うのが薛剣本人、生真面目そうな文体で絵文字も0〜1個しか使わないのが、逆バ美肉25歳ではないかと見ている。

なぜ今回の記事が成立したのか

 さて、ここまで日本初の中国戦狼外交官のツイッター活動の背景と運用実態について詳しく考察してきた。だが、読者各位にはもっと大きな疑問を覚えている人もいるのではないか。

 ──なぜ、こんな内容の記事が成立しているのかだ。

 結論から書けば、中国駐大阪総領事館は、これまで中国関連の記事を多数(それどころか総領事館に直接言及した記事も)書いている私の身元調査も、日本の最大手月刊誌『文藝春秋』の過去半年間の中国関連記事の確認も、ほぼおこなっていなかった可能性が非常に高い。

 日本では一般的に、中国の在外公館はあらゆる情報を調べ上げる抜け目ない諜報機関──。といったイメージを持たれている。だが、事実は小説より奇なりだ。

 ツイッターで私たち西側諸国の政治体制への挑戦を公言し、西側メディアへの警戒感をにじませる「戦狼外交」の担い手たちの実態は、非常に人間臭くて“いたいけ”だった。諸方面への配慮からこれ以上の詳細は伏せるが、その事実だけは指摘しておこう。

10月30日、援農ボランティアに行った薛剣は素人離れした速度でミニピーマンを収穫。さらに別の農園でも、硬い土壌に辟易する部下をよそに「私が幼いころの中国農業は機械化されていなかった」と話しながら素手で巨大なサツマイモを掘り出したという。写真は本人ツイッターより。

 今日もツイッターで戦う総領事・薛剣が自国の立場を語ったロングインタビュー「中国の真の姿を見てほしい」と、私が彼の戦狼外交の実態を調査した「中国総領事、吠える」の記事2本が収録された『文藝春秋』新年特別号は現在、全国で好評発売中である。

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