総領事就任以来、薛剣は過激なツイッター活動のいっぽうで、熱心に「パンダ外交」をおこなったり京都・奈良の古寺との仏教外交を活発化させたり、さらに12月上旬には苛烈な少数民族弾圧が西側メディアで伝えられている新疆ウイグル自治区へのツアー旅行までも告知したりと、外から目に見える行動を活発化させている。
これらは業績づくりが目的とみられるものの、彼は外交部ジャパン・スクールでは50代前半世代の出世頭だ。文革初期の1968年に江蘇省北部の農村で生まれ、「4歳でアルコール度数40度の酒を飲まされる」ダイナミックな幼少期を送りつつも、村一番の秀才として北京外大(当時は外語学院)に進学。天安門事件を乗り切って外交官になり、エリート層の仲間入りを果たしたハングリーな人物である。
ツイッターでの粗暴な言動のイメージも強いものの、あれらは彼なりに戦略的に考えた演技。本来の薛剣は仕事がデキる努力家であり、コンピューター付きブルドーザーのような行動力と突破力は凄まじい。現在はさらなる出世のために「目立つ」(=北京にアピールする)という目的に能力を全振りしているようだ。
「戦狼外交」が出世のパスポート
近年、中国外交部では、アメリカをはじめとする西側諸国に攻撃的な言葉をぶつけて「西側式」の民主主義体制や人権概念を批判し、自国の正しさや強大さを上から目線で強調する「戦狼外交」が大流行だ。
2019年には駐パキスタン公使に過ぎなかった趙立堅のツイッターアカウント(@zlj517)がこの手法で人気を集め、彼は北京に呼び戻されて「国家の顔」たる外交部スポークスマンに出世した。この実例にあやかってか、中国人外交官が同様に強硬な言辞を発信する現象が増えている(前駐英大使・劉暁明の棍棒外交はこちらを参照)。
実のところ、アフガニスタン問題への対処をはじめ現実の中国外交は意外と慎重であり、外交官たちの派手で挑発的な言動はあくまでも国内向けのアピールだ。極論、彼らの「話の内容」について、われわれ外国人が真面目に取り合う必要はあまりない。
ただ、決して愉快でないのは事実だ。2020年以降、欧米諸国で対中好感度が大きく悪化した理由は、コロナ問題や香港・新疆の人権問題に加えて、中国外交官らの粗野な言説が嫌がられたことが大きい。だが、「戦狼外交」は自身の出世のパスポートとなり得るだけに、新規参入する外交官たちは後をたたない。
1日110ツイートの「ツイ廃」総領事、爆誕
この「戦狼外交」が日本で展開された最初の事例が薛剣なのだ。彼もときには、中国の食事や旅行・スポーツの情報や、日中交流の様子を穏健な文体でツイートすることもある。だが、これらに混じって、中国共産党体制を支持する中国人や親中派日本人(パンダハガー)のツイートを大量にRT。新疆・香港問題に対する中国政府の立場の擁護や、対米批判を積極的におこなっている。
ツイッター投稿を分析するサイト『whotwi』で調べると(12月9日正午現在)、薛剣のアカウントの1日の平均投稿数は109.7本(うち約8割がRT)で、1日平均文字数は12377文字。平均ツイート間隔はわずか13分である。投稿の98.7%はAndroidのツイッターAppでおこなわれ、時間は朝7時台と夜23時ごろの投稿が多いが、深夜の1時や早朝6時にツイートした例もある。
数字を見れば、相当に仕上がった「ツイ廃」(ツイッター廃人)だ。一部のツイートは部下におこなわせているというが、国際人権団体アムネスティを「害虫」と呼んだ投稿は、間違いなく本人の書き込みであることが確認されている。事実、出勤前と退勤後らしき時間の投稿数が多く、休日でも平気でツイートしていることから、本人の投稿はかなり多いだろう。