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《紅白歌合戦“裏番組”の戦い》「1000万円積んだら、シナトラに話してやるよってギョロナベさんが…」本家に正面から挑んだ「85年・世界紅白歌合戦」36年ぶりの“誕生秘話”

《紅白歌合戦“裏番組”の戦い》「1000万円積んだら、シナトラに話してやるよってギョロナベさんが…」本家に正面から挑んだ「85年・世界紅白歌合戦」36年ぶりの“誕生秘話”

紅白歌合戦「裏番組」を巡る・疋田拓氏インタビュー#1

2021/12/30
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 翌日、フジテレビには世界各国のレコード会社から問い合わせの電話が鳴り止まなかった。以降、出演者に困ることはなくなり、さらなる副産物もあった。

「プロモーションで出てもらえるようになったから、ギャラが発生しなくなったんです。衛星中継だけでかなりの費用が掛かりますから助かりましたよ」

ティナ・ターナ―出演時の新聞広告(1985年4月17日)

目玉はマイケル・ジャクソン! 『世界紅白歌合戦』を企画

 異例のブッキングを景気の良い時代だからと一言で片付けるのは、あまりに安易だ。疋田氏の発想と行動力、後押しした鹿内氏の決断力は見逃せない。プロデューサーと副社長という必要最少人数しか関わらなかったからこそ、世界的に稀有な夢の共演が実現したのではないか。現在では、複数の上司の許諾を得るだけで何日も掛かり、物事がスムーズに進まない上に、誰が責任者なのか明確ではない会社も存在する。合議制で企画は丸くなり、責任の所在があやふやになる。

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 名プロデューサーと評されたギョロナベ氏は断言している。

〈たくさんの人間がいれば、それだけバカも多い。そのなかで多数決とってもしようがないでしょう。独断と偏見だといわれても、ぼくはぼくのやりたいように作っていく。それでいいと思っている〉(1981年4月23日号・週刊サンケイ)

 “毎週、外タレを『夜のヒットスタジオ』に出演させる”という疋田氏の野望は、周囲に無理だと囁かれた『東京音楽祭』を成功させたギョロナベ氏に通じる何かがあった。

 無謀な挑戦を成功させた疋田氏は、『NHK紅白歌合戦』の裏番組として前代未聞の『世界紅白歌合戦』を企画する。その目玉として、マイケル・ジャンクソンの招聘に動いた――。

©文藝春秋 撮影・宮崎慎之輔

#2へつづく)

疋田拓(ひきた・たく) 1942年8月10日生まれ、宮崎県出身。日本大学芸術学部卒業後、NHKに契約社員として入局。68年11月、フジテレビ入社。『夜のヒットスタジオ』『オールスター紅白水泳大会』『スターどっきり㊙報告』『FNS歌謡祭』など看板番組のプロデューサーを務めた。現在、番組制作会社「プロデュース&ディレクション」の代表取締役。演出を手掛ける『人生、歌がある』(BS朝日)は2022年1月1日18時から5時間放送。五木ひろし、郷ひろみ、田原俊彦、氷川きよし、ももいろクローバーZ、由紀さおり、伍代夏子、坂本冬美、細川たかし、千昌夫、天童よしみ、菅原洋一など50組が登場する。2021年には文化庁長官表彰を受けた。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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