インパクトのあるネーミングにしたいと考え…
当時の日本ではキャラメルが流行していたこともあり、江崎はキャラメルにグリコーゲンを入れ込むことを思いつくのですが、いかんせんキャラメルの製造経験などなかったため、かなりの苦戦を強いられます。
さらにその形にも強いこだわりを見せ、特徴的な“ハート形”を実現させるために、キャラメルの粘度を何度も改良したり、型取り用のハート形ローラーを自社で開発した末、ついにハート形のキャラメルの製造にこぎつけました。
――ようやく誕生したキャラメルを世に広めていくために、どのような努力をされたのでしょうか。
石橋 江崎はキャラメルをインパクトのあるネーミングにしたいと考え、3文字にすることにこだわり、グリコーゲンから取って『グリコ』という名前を発案します。ですが、社内からは「それじゃあ、なんの商品かわからない」と全く賛同を得られず、『グリコキャラメル』にしたほうがいいと言われてしまったそうです。しかし、江崎は今までにない“栄養菓子グリコ”としてのブランディングにこだわり、『グリコ』というネーミングで押し通しました。
おもちゃを通して感じられる、日本の消費社会の変遷
――『グリコ』といえばおまけのおもちゃが有名ですが、どのようにして生まれたのでしょうか。
石橋 江崎が大切にしていた言葉に、“子供の天職は食べることと遊ぶことだ”というものがあります。食べることは『グリコ』のキャラメルが担うとして、残りの遊ぶことを“おまけのおもちゃ”に担ってもらうことにしたわけです。これは販促目的でもありましたが、身体だけでなく心の部分の健康も気遣いたいという、江崎の気持ちが込められたキャンペーンでもあったわけです。
今でこそ、“食玩”としておもちゃを同梱するお菓子は増えましたが、『グリコ』はその元祖と言っていいかもしれません。今日までに3万種類以上のおもちゃが生み出されてきましたが、開発担当者たちは苦心を重ね、ときには幼稚園の先生たちに意見を聞きに行ったり、70年代には一般消費者の子供を持つお母様方からアイディアを募集したりしたこともありました。
素材も木製からプラスチック製に移り変わり、そこからまた木のおもちゃに戻るなどを経て、最新版では箱のアプリのQRコードを読み取り、アプリのカメラで付属のおもちゃを撮ると、バーチャル空間でさまざまな情報にアクセスできる仕様になっています。これらを通して見ると、日本の消費社会の変遷が感じられるところがおもしろいですよね。