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「貧富の格差」から国民の大量流出

 私がロシアに暮らしていて不条理に感じたのは、天文学的な貧富の格差だった。所得は増加したものの、庶民の生活はまだまだ苦しい。政府は貧困層が国民全体の15%まで減少したとしているが、高物価の中、「70%は絶対的貧困か部分的貧困の生活に沈んでいる」(「白書」)のが実感だ。

 独ソ戦を前線で戦った元兵士が月100~200ドルの年金でつつましく暮らす一方で、民営化をうまく立ち回ったニューリッチは、首都郊外に高い塀に囲まれた豪奢な邸宅を構え、投資目的で新築のコンドミニアムを購入し、ベンツやトヨタ・レクサスを何台も所有し、地中海にヨットを浮かべ、子弟を欧米の有名大学に留学させ、ウォール街に投資する。そこには信じがたいほどの格差がある。

 ソ連時代の共産党特権階層は、せいぜい外国訪問の代表団にもぐりこんだり、キャビアを横流しで入手したり、国産車ボルガを所有する程度だった。

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 こうして利権構造が定着し、汚職腐敗が蔓延すると、自由なビジネスや起業は困難で、市場経済の専門性も生かせない。社会の閉塞感に絶望した若者や中間層の海外移住が顕著で、09年から3年間に125万人が海外に移住した。11年6月の世論調査では、18~24歳の若者の4割が国外移住を希望している。

 知識人や有能な若者の大量出国は、1917年のロシア革命前後、91年のソ連崩壊前後に続き、現在が「第三の波」といわれる。出国の波は、プーチン時代が終わるまで続くだろう。

前編から読む

独裁者プーチン (文春新書 861)

名越健郎

文藝春秋

2012年5月21日 発売