三谷幸喜氏の脚本による大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で描かれている鎌倉時代をはじめ、日本の歴史上では数多くの「合戦」が繰り広げられてきた。合戦の歴史を紐解いてみると、生身の人間たちの“リアル”な心理状況が読み取れるのだ。

 ここでは、東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏の著書『「合戦」の日本史 城攻め、奇襲、兵站、陣形のリアル』(中央公論新社)から一部を抜粋。合戦における兵力の重要性や、源頼朝のエピソードなどを紹介する。(全2回の1回目/後編に続く

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兵力の「数」が戦いの勝敗を決める

 合戦の勝敗を判断するには合戦の目的を考えることが重要だと述べました。それでは、合戦の目的を達成するためには、何がカギになってきたのでしょうか。リアルな合戦ということを普通に考えれば、最も重要なのは兵力、すなわち数だと思います。先にも述べましたが、戦前・戦中の歴史学と軍部が重視し、クローズアップしてきた少数精鋭による奇襲戦法などは、本来であれば悪手だと思います。

 地球連邦軍とスペース(宇宙)コロニーのジオン公国軍が戦った一年戦争を描いたテレビシリーズ『機動戦士ガンダム』という有名なアニメがあります。そのなかでジオン公国の総帥であるギレン・ザビに、弟で宇宙攻撃軍司令であるドズル・ザビが「戦いは数だよ、兄貴!」と進言します。もちろんガンダムはフィクションですが、現実の合戦でもドズル・ザビの言う通りなのです。

 どんなに優れた英雄豪傑が1人いようとも、圧倒的な数で来られれば結局、負けてしまいます。逆に言えば、合戦の勝敗を握るのは、どれだけの兵力を動員できるか、なのです。ですから、どれだけの数の兵力がひとつの合戦に動員されたのかをきちんと分析することが、合戦のリアルを見ていくことにつながります。

 しかし、日本史研究において、実はこれが非常に難しいのです。

 たとえば、中世を研究する人間にとって一級史料とされるものに、鎌倉幕府の歴史をまとめた『吾妻鏡』があります。鎌倉幕府の執権職を務めた北条氏の視点から編纂された歴史書ですから、同時代の貴族たちが書いた日記などと比べると、史料としての確度はどうしても落ちてしまいますが、やはり中世、特に鎌倉時代を研究する者はまずこの『吾妻鏡』にあたることが求められます。

 ところがその『吾妻鏡』には堂々と嘘が書いてある。その最たるものが兵力、つまり兵の数なのです。たとえば、後鳥羽上皇と朝廷、北条義時と鎌倉幕府の対決となった承久の乱では、幕府側の軍勢は19万人だったと記されています。