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申し訳なさそうな「有効期限が切れています」

 もうすでに十分なダメージを受けていた。にも関わらず収録は続いていく。

(カンカン)(ETCカードが挿入されました)「このカードは有効期限が切れています」

「日髙さん、感情は込める必要ないです」

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(カンカン)(ETCカードが挿入されました)「このカードは有効期限が切れています」

「日髙さん、普通にサンプルと同じ雰囲気でお願いします」

(カンカン)(ETCカードが挿入されました)「このカードは有効期限が切れています」

「だから申し訳ないとか思わなくていいんですって!」

「だから思ってませんって! 申し訳ないなんてい~ち~ミ~リもっ! 思ってません!!」

 どうやら私は自分の思いとは裏腹に、否定的な言葉を言うときには無意識に申し訳なさそうな声になってしまうらしかった。そういえば……。

©iStock.com

 以前、子供向けのドキュメンタリーのナレーションをしていたとき、畜産農家で育てた牛を出荷するため車に載せて走る映像が流れ、一瞬だけ心の中で「ドナドナ」が流れたことがあった。そしてその後「食肉処理場です」という建物紹介のコメントが入る。そういう場合はスッと何も考えずに言ったほうがいいと思っている。そうしたつもりだった。

 ところが、ここだけ声が暗くなったと言われたのだ。一瞬流れた『ドナドナ』、「可愛い子牛売られていくよ」の哀愁ある歌詞とメロディーに無意識に心が引っ張られてしまったのだ

 と思った。このときはドナドナが流れないように映像から目を外すことで事なきを得たのだけれど……さて、今回はどうしよう。

 ちょっとうれしい気持ちにもっていったら中和されるんじゃないかとか、親切に教えてあげるモードにしたらハマるかもとか、あの手この手を考えて、結局何とか乗り切った。

 最終的にどこにたどり着いたのかは、いろいろ考えすぎたせいで覚えていない。ただピンチを乗り切ろうと頭に浮かぶアイデアがあまりにアホすぎて、そんな自分に呆れて、ピンチを通り越して笑ってしまったりして。そのおかげでモチベーションを維持することができたので、こういう性格で良かったな、救われたなと呑気に思ったことだけは覚えている。