《ブス》は名誉毀損になるか、ならないか
――でも、マンガで人妻に寄せられた《ブス》《ヤリマン》《肉便器》などの言葉は、明らかにひどい言葉に思えますが。
清水 言葉だけを見ると、《ヤリマン》《肉便器》は名誉毀損といえる余地があり得ると思いますが、《ブス》という言葉ひとつだけなら、微妙かもしれません。
――それだけでは、名誉毀損にはならないですか。
清水 《ヤリマン》や《肉便器》に比べると、《ブス》は日常的に使われる言葉ですよね。それだけで「社会的評価が低下した」という客観的事実を提示するのは難しいです。
――では、名誉感情侵害という主張はできますか。
清水 名誉感情の侵害は、社会通念上の許容範囲を超えるもの、つまり「それは誰が言われても傷つくよね」といえるレベルじゃないと成立しない、とされています。
その視点で考えると、《ブス》というひと言だけでは難しいです。というのは、その言葉への耐性が高い人がいるかもしれないからです。
――そう言われても平気な人もいる?
清水 たとえば、《バカ》という言葉がありますね。プライドが高い人の場合は、《バカ》と言われただけで「傷ついた、不快だ」と感じる。ところが、プライドが低い人は、《バカ》と言われても許容できたりします。
法的には、このように“人によって判断が異なる言葉”は「名誉感情侵害」といえない、と判断されます。
数カ月間ずっと《ブス》と言われ続けたら?
――では、相手に不快感を与えたとしても、それがありふれた言葉なら、法解釈上は「社会通念上の許容範囲」とみなされるのでしょうか。
清水 程度の問題だと思います。現代社会では基本的に、「あの人は〇〇な人だ」と他人を評価・判断することが許されています。
すると、《ブス》と書いただけなら「その人の感想、個人的な評価にすぎない」ともいえるんです。
――評価の問題?
清水 ええ。ですから、相手に不快感を抱かせたとしても、法的には名誉感情侵害にあたるとはいえず、許容の範囲内という判断になると思います。
――では、同様の書き込みを、数カ月にわたって送り続けた場合はどうですか。
清水 そういうケースは、さすがに限度を超えている、と判断されると思います。
“限度を超える”とは何かというと、その時代の社会通念や感覚で決めざるを得ないところがあります。だから「何をもって誹謗中傷というのか」は、非常に曖昧な部分があるんです。(#2に続く)