ーー売らずに貸すという選択は。
アンナ 貸そうとは思わなかったんです。そもそも真鶴の家は、私には荷が重すぎたんです。1,000トンぐらいのものを背負っている感じだったから。築36年の家は絶対にどこか壊れます、なんだかんだいってお金が掛かりますよね。だったらオーナーチェンジをして、きちんと維持できる力のある人にお譲りする形が一番理想的だなと思って。
「私じゃ家を可愛がれない」と思ったの。「よしよし、どうしたの? ここが痛いの?」と守ってあげなきゃいけないんですけど、私の力じゃ対応できませんでした。
「父に失礼」誰にでも売りたくなかった理由
ーーそして、不動産屋さんに入ってもらったと。
アンナ 真鶴という土地と、風習を熟知している不動産屋さんにお願いしたほうがいいと。で、真鶴のエリアに詳しい、別荘を専門にした不動産屋さんに相談して。そこのTさんが担当になってくれて、そのTさんがこれまた熱血で、本当にお客さんの立場になってものを考えてくれる人だったんです。
「はいはい、わかりました。あぁ、この物件。じゃあ、誰でも」という軽い感じでは、パパに対して失礼だと思ったので。パパがどういう思いでこの家を守ってきたか、2年足らずとはいえ私がやってきたことをわかってくれたうえで、お客さんに説明できる人がいいなって。
ようするに価値観ですよね。価値をちゃんと伝えてくれる人じゃなかったら、私はちょっと。お金を出してくれればいいというものではなかったから。
ーー2022年になって少ししてから、Tさんに動いてもらった感じですか。
アンナ 「あけましておめでとうございます」の連絡の後、「なるべく早く来てください!」とご相談したら元旦に来てくださったの。
もともと付き合いはあったんです。父が亡くなって、すぐにTさんから手紙をいただいて、「売りませんか?」って。それからの付き合いなので、もう大体のことは把握済み。私が決心して、お呼びしたんです。
写真=三宅史郎/文藝春秋
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