とにかく介護期間は、約10年を想定する必要がある。在宅介護には平均で月額約8.3万円かかっており、10年換算では1人あたり約1000万円が必要だ。それにもかかわらず、収入のない高齢者世帯(働いていない世帯)に限って見ると、平均貯蓄額は577万円であり、そのうちの55.2%が貯蓄ゼロの状態である。
アクティブシニアという言論の陰で、変わらず高額な介護費用の問題が存在している。今後、日本の高齢者福祉財源が厳しくなっていく中で、物価高と合わせて、家計に対する介護費用の問題は大きくなり続けるだろう。それにもかかわらず、昔と比較して兄弟姉妹が少なく、未婚率も高い現役世代は、介護費用を血縁のうちに分散させることができない。
介護離職問題のリアル
介護を理由として仕事をやめる、いわゆる介護離職が問題という声がある。現在の日本では、毎年約10万人が介護離職をしている。しかしこの数は、毎年の転職者数が約300万人であること、及び、出産退職が毎年約20万人であることと比較したとき、目立たない問題と言える。もちろん介護離職は、本人たちにとっては恐ろしく重要な問題である。しかし、社会的に見たときにはことさら大きな問題とはいえない。
今後の日本において、本当に重大な社会問題と言えるのは、圧倒的多数となる仕事と介護の両立をするビジネスケアラーのパフォーマンス支援である。高額となる親の介護費用の援助のみならず、自分自身の介護費用を捻出するためにも、介護離職という選択肢は一般のビジネスパーソンには存在し得ない。
仕事と介護の両立支援プログラム(LCAT)は、3年後の2025年時点で、日本のビジネスパーソンのうち約3割(約2000万人)が、深刻な介護問題によって、仕事への悪影響を経験することを明らかにしている(サンプルサイズ3万2933人)。介護離職は、水面の上に見えている小さな氷山であり、水面下には、より巨大な問題が潜んでいるのだ。