超高齢社会における企業収益の悪化
育児・介護休業法(1991年公布、1992年施行)によって、日本企業では、介護を理由とした休みは取得しやすくなっている。しかし、こうした制度を利用しているビジネスケアラーは全体の5%未満と非常に少ない。ビジネスケアラーたちが本当に求めているのは「休みやすい柔軟な職場」ではなく、介護費用を捻出するためにも「休むことなく介護を行う具体的な方法」だからである。
前述した通り、介護離職者は、転職者全体から見れば少数である。さらに介護休業を取得するビジネスケアラーは非常に少ない。日本企業の多くが「自社には介護問題は存在しない」と誤解をしても仕方がない。しかしその裏では、介護を理由にパフォーマンスが低下しているビジネスケアラーが多数存在するのだ。
そもそも介護は千差万別、個別性が高いため、制度で一気に網をかけるような対策は向かない。それぞれのビジネスケアラーが、仕事と介護の両立リテラシーを高め、個別の課題解決能力を高めるしかない。これは制度問題ではなく、教育問題であるという部分に気づけないと、超高齢社会における企業収益は、どんどん悪化していくことになる。
株主総会において、株主が「御社のビジネスケアラー支援はどうなっていますか?」と聞かれる未来は、すぐ目の前に迫っているのではないだろうか。介護離職そのものが問われているのではない。従業員の約3割、仕事と介護の両立を強いられているビジネスケアラーたちへのパフォーマンス支援が問われているのである。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。