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「異次元に子どもに冷たい日本」のワケ

――そもそも、なぜ日本は「異次元に子どもに冷たい国」になってしまったんでしょう。

 日本は「法は家庭に入らず」「子どもは親のもの」という考えがいまだに根強いからでしょう。フランスもかつてはそういう考えが強かったのですが、少子化が進んだことを受けて1990年代に一気に子育て政策に舵を切り、「社会で子どもを育てる」国に生まれ変わった。

 少子化問題に直面したフランス以外のヨーロッパの国々も足並みをそろえるようになり、今や子どもや家族の問題について、政治行政が責任を果たすのがグローバルスタンダードとなっています。

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――今年4月に設置される「こども家庭庁」のネーミングも、「こども=家庭の問題」という認識を広げてしまうのではないかと物議を醸しましたね。

 こども家庭庁は方針も不明確で、財源も不十分だし、これでは「子どもの面倒は家庭がやるべき庁」になってしまうのではと危惧しています。「社会で子どもを育てる」という“先進国の常識”が国の中枢には浸透していないようにみえますね。

「財源がない」は思い込み 600万円世帯の月8500円程度

――日本では明石市の支援が際立って分厚いですが、諸外国と比べてどうなのでしょうか?

 明石市は諸外国の政策を参考に「5つの無料化」を実行して子育て支援を進めてきました。日本ではすごいすごいと言っていただけますが、実はまだグローバルスタンダードの手前ぐらい。だから胸を張れる話じゃないし、子ども達に遅くなってごめんなさいという気持ちかな。

――明石市独自の子育てに関わる「5つの無料化」ですね。高校3年生までの医療費、第二子以降の保育料、満一歳までのおむつ、中学生の給食費や公共施設をすべて所得制限なし、自己負担なしで市民に提供しています。

明石市が力をいれる「おむつ定期便」。おむつは必ず手渡しするため、家庭内の困りごとにいち早く気づくきっかけになる 提供:明石市役所

 「5つの無料化」が整備された当初は「変わり者の市長からできた」とか、「うちにはそんな財源はない」とよう言われました。

――子育ての支援の話題で必ず論点に挙げられるのが財源の確保です。日本の経済は上向きとは決して言えませんし、なぜ新たな財源を用意できたのでしょう。

泉 そもそも、新たに子育て支援をするんだったら「増税する」か、「新たな保険を作る」しかないというのは、国やマスコミの思い込み。

 明石市の「5つの無料化」でかかった財源ってたかだか35億円なんですよ。これは明石市の1年間の予算2000億円のうちのたった1.7%。1.7%というのは、例えば共働き600万円世帯の1カ月の収入のうちの8500円。子どもの習い事の月謝8500円を親が出すかどうかの論点と同じなわけです。自分の子どもが塾に行って勉強したい、サッカーやピアノを習いたいと言ったら、家計がひっ迫していても8500円をなんとか捻出しようとするんちゃいますか?