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「朝日の記者は国会議員を『先生』と呼ばない」は昔話? 河野太郎、杉村太蔵、菅野志桜里に「ご意見拝聴」のナゼ

新聞エンマ帖

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手練れの業界ウォッチャーが、新聞報道にもの申す! 月刊「文藝春秋」の名物連載「新聞エンマ帖」(2023年3月号)を一部転載します。

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人気政治家は“有識者”なのか

 十数年ほど前だったか、朝日の政治部記者から、こんな話を聞いた。「国会議員を他社のように『先生』とは呼ばない」。議員は権力であり、批判的視点で向き合う対象で、「自分たちは彼らと同等だという気構えが必要だからだ」と。しかし、それも、とうの昔の話か。そう疑わざるを得ないのは、政治部による新年の連載を読んだからだ。

 1月6日朝刊四面でスタートした「30代のRe」という連載。初回は、札幌市のすし店でアルバイトとして働く元歯科衛生士の女性(29)の話だ。「就職した歯科医院は年収約300万円から上がる見込みはなかった。いつか結婚して子どもを産み、家庭を築いて……そんな将来をイメージできなくなった」として、歯科医院を2年でやめ、語学留学後、カナダのトロントの日本食レストランで働き始めた。時給の高さに驚き、日本の貧しさに気づき、海外ですし職人として稼げるようになるために、修業をしているという。

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 ここまでは社会面でよくみる記事だが、この後が違う。女性が「なぜ日本は希望の持てない国なのでしょうか。普通の暮らしがしたいので日本を脱出します」と質問を投げかけ、それに対し、河野太郎デジタル相が答える構成になっている。河野氏は「政治がこれから取り組まなければいけないことは、別の仕事にチャレンジしたいと思うあなたのような人が、より自由に転職できる環境をつくること」と一人語りで悩みに答えている。

 連載2回目以降も、市井の人が自らの政治に対する疑問を吐露し、杉村太蔵元衆院議員、菅野志桜里前衆院議員、国民民主党の伊藤孝恵参院議員が、河野氏と同じように一人語りで回答している。

河野太郎氏  ©文藝春秋

 ここで疑問が生じる。登場する市井の人は低賃金にあきれた女性や大手企業に嫌気がさし、ブロガーに転じた男性、世帯年収2000万円ながら児童手当の所得制限に疑問を呈する母親、転職を繰り返す男性であり、いずれも政治の失敗を受けた被害者。それなのに、現職や元職の政治家を「有識者」として登場させ、解決策を語らせるのだ。

 政治家は監視対象だという心得があれば、登場する政治家に問いただしただろうし、政治家を「先生」とあがめるように「ご意見拝聴」という構成にはしないはずだ。

 連載では、なぜ河野氏ら4人を回答者に選んだのかの説明も皆無だ。河野、菅野、杉村の3氏はいずれもテレビ出演など露出が多く、知名度が高い。ネットのPV(ページビュー)狙いの記事なのか。記者がジャーナリストの矜持を失っては、良質の読者から見放されてしまう。