「日の丸の赤は何を意味していますか?」「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」――街頭でマイクを向けられ矢継ぎ早に問われる。躊躇いなく、次から次にだ。

 映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』は観る者に揺さぶりを掛けてくるドキュメンタリーだ。仕掛けたのはTBSドラマ制作部所属の佐井大紀監督。28歳である。

「入局時の新人研修で、TBSが制作した60年代、70年代のドキュメンタリー番組を観るプログラムがありました。アーカイブを見せながらテレビメディアに対する固定観念を払っていく、そういう時間だったと認識しています」

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 成田闘争について様々な人間が発言する討論番組では、意見の集約や解決案の提示もないまま放送時間いっぱいで終わったという。現代の視聴者なら荒削りで戸惑いを覚えるような構成。そういう番組の中に、1967年2月放送の『日の丸』があった。

「25分ほどの番組で、街行く人や選挙の街頭演説を聞いている人、小学生と、全国あらゆる場所で機械的にマイクを向けて質問を繰り返していました。ゴダールが好きな僕は、60年代にフランスで制作された実験的な映画と『日の丸』が重なったんです。ああいうことができるな、と」

佐井大紀監督

 67年の日本――東京五輪が終わり3年後に大阪万博を控え、ベトナム戦争の不安が社会を覆う。2022年の日本も同じだ、そう感じた佐井監督が、55年を経て「日本人」は何と答えるのかを試みた。それが本作だ。

「当時、突然マイクを向けられても答える人は結構いたようです。テレビは今より圧倒的で、断れない存在だったのではないでしょうか。今回は僕が街頭で声を掛けたのですがユーチューバーかと不審がられることが多かった。ただ、質問への答えが変わったとはさほど感じませんでした。実はこの取材で僕は日本人とは何か、そういう大きなものが捉えられると思っていた。『日の丸』が何を狙っていたのか、その仕組みを理解せず無謀にも飛びついていたんです」

 67年放送の『日の丸』は寺山修司が構成し、のちにテレビマンユニオン創立者の一人となる萩元晴彦ディレクターが制作した。彼らの狙い、それは機械的に繰り出される質問に答える人々の姿を映す――テレビを使い人間の感情を炙り出す壮大な実験だった。

「番組放送後、『偏向報道だ』と閣議で問題視され、郵政省電波監理局がTBSに調査にも入りました。でも、寺山さんと萩元さんは政治的意図からこの番組を作ったわけではないんです。自分の国の国旗について答えるだけなのに嫌な気持ちになる、本来それは歪(いびつ)なことですよね。寺山さんにはドキュメンタリー×ドラマで『ドキュラマ』という概念がありました。現実の中にフィクションを放り込むことでドラマが生まれる。イデオロギー的な石(テーマ)を投げかけたのです。ではなぜそのようなことをしたのか。それは、映画の後半でひも解かれていくことになります」

さいだいき/1994年生まれ、神奈川県出身。2017年、TBS入社。ドラマ制作部所属。『Get Ready!』『階段下のゴッホ』などドラマのプロデューサーを務める傍ら、21年9月上演の朗読劇『湯布院奇行』を企画・プロデュースした。ラジオドラマの原作、文芸誌への寄稿と活動は多岐にわたる。

INFORMATION

映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』(2月24日公開)
https://hinomaru-movie.com/