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《山口連続殺人放火事件》「みんな仲良しなのに、ひとりだけ浮いた存在」近隣住民5人を殺された村人が語った「犯人の人柄」

《山口連続殺人放火事件》「みんな仲良しなのに、ひとりだけ浮いた存在」近隣住民5人を殺された村人が語った「犯人の人柄」

『つけびの村』 #2

2023/03/12

genre : ライフ

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 保見は、これを不服として即日控訴。2016年7月25日、広島高等裁判所で控訴審の第一回公判が開かれたが、弁護側の証拠請求はすべて却下されて即日結審し、同年9月13日、控訴棄却。その翌日、保見側は上告した。

 判決では本鑑定の結果に基づき「近隣住民が自分のうわさや挑発行為、嫌がらせをしているという思い込みを持つようになった」と認定されているが、これが本当に「思い込み」だったと言えるのかについて、私自身はすこし疑問を感じていた。事件発生当初から、保見は集落の村人たちから“村八分”にされていたのではないかという疑惑があったからだ。

保見という男

 金峰地区の郷集落で生まれ育った保見は中学卒業後に上京し、長らく関東で働いていたが、90年代にUターンしてきた。しかし村人たちの輪に溶け込めず「草刈機を燃やされる」「家の裏に除草剤を撒かれる」「『犬が臭い』と文句を言われる」など村人たちとの間に摩擦があったことをうかがわせる出来事が起こっていたのだと大手女性週刊誌は報じていた。

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保見家のお墓(写真:筆者撮影)

 また被害者のひとりである貞森誠さんが、かつて保見を刺したことがあったらしいという、気がかりな情報も耳にしていた。

「みんな仲良しなのに、ひとりだけ浮いた存在」

 保見の逮捕直後、新聞のインタビューに近隣住民が語っていた。

 保見はICレコーダーに「周りから意地悪ばかりされた」と吹き込んでいたが、これは妄想などではなく、本当のことなのではないか──。

多忙な夫に子供を預け、金峰地区に取材へ

 この事件についてはそのような認識を持っていたが、依頼された取材の目的は少し違っていた。編集者は、金峰地区における“夜這い風習”について取材をしてきてほしいと頼んできたのだ。

 彼は、私に一本の記事のコピーを手渡した。それは2016年10月発売の、ある週刊誌に掲載されていた山口連続殺人事件にまつわるものだった。とあるジャーナリストが、広島拘置所に収監されている保見に面会し、逮捕当時に大きく報じられていた「村八分」の発端となる「ある事件」について話を聞いたというのだ。

 読めば、金峰地区には“夜這い”の風習があり、戦中にひとりだけ徴兵を免れた村人が、女たちを強姦してまわっていたという。そして、この村人が保見の母親を犯そうとしたとき、それを止めて追い払った人物が、保見光成と20歳近く年の離れた実兄なのだ、と。

「これを、ちょっと行って来て、確かめてもらえる?」

 と、その編集者は言った。

 当時、私も保見の一審公判を傍聴に行きたいと思っていたが、子供が産まれたばかりだったため、なかなか家を空けることができず、諦めたという経緯があった。編集者とはその話も過去にしていた。おそらくそれを覚えていて、話を振ってくれたのだろう。二つ返事で引き受けた。