1965年(121分)/東映/3080円(税込)

 京都で時代劇が多く作られてきたのには、その地域性も大きい。市内には古くからの神社仏閣が数多くあり、情緒豊かな「江戸の景色」に事欠かないのだ。そのため、西郊の太秦にある撮影所から、さほど移動に時間をかけずにロケーション撮影ができる。

 さらに、建物だけでなく、田畑や河原や里山や峠道などの「野面」の風景も、撮影所から車で一時間圏内にバリエーション豊富に広がっている。こうした、「すぐに時代劇のロケができる」という利便性が、京都を時代劇製作の拠点たらしめてきている。

 関西各地の時代劇のロケ地を取材して解説した拙著最新刊『時代劇聖地巡礼 関西ディープ編』では、そうした普段なかなか行きにくい野面も数多く紹介している。

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 では、海の撮影はどうするか。京都市は内陸だ。外海である日本海には遠い。大阪や神戸界隈は開発され過ぎて、とても時代劇などは撮れない。

 それでも、京都の近くには琵琶湖がある。琵琶湖沿岸の多くは砂浜になっており、防風林として松が立ち並ぶ。波もそこそこある。対岸を上手くトリミングすれば、途端に浮世絵そのもののような東海道の眺めになるのだ。

 今回取り上げる『宮本武蔵 巌流島の決斗』もまた、琵琶湖を「海」として巧みに使った作品だ。

 中村錦之助が宮本武蔵を演じ、内田吐夢が監督した五部作のラストを飾る本作では、宿敵である佐々木小次郎(高倉健)との対決が描かれる。

 決戦の地は、もちろん表題の通り巌流島だ。長く続く砂浜、背後に広がる松原、打ち寄せる波、対岸に連なる山々――。映し出される光景は、どう見ても関門海峡に浮かぶ巌流島にしか見えない。

 だが、実はこれも琵琶湖だった。前作『一乗寺の決斗』が予算をかけた割に観客動員は伸びていなかった。そのため、本作は予算を大きく削られてしまい、内田監督としては実際の瀬戸内で撮りたかったが、近場の琵琶湖を使うしかなかったのだ。

 ロケ地は西岸の近江舞子なので、日帰りができ、宿泊費はかからない。それでいて、そこに広がるのは、二大剣豪、二大スターが激突するのにふさわしい、迫力十分のロケーションだった。一年に一部ずつ製作・公開されるという映画史上でも屈指の大プロジェクトは、見事に締めくくられる。ここでも、京都の利点が発揮されたのだ。

 ちなみに最新刊の表紙に掲載される写真は、まさにこの巌流島のロケ地。劇中の小次郎と全く同じアングルで、筆者がたたずんでいる。

 車なら京都駅から一時間で、高倉健の気分になれる。