さらに、球団が容認しなければ使うことができない「ポスティング・システム」でのメジャー移籍なら、藤浪の「夢」を後押ししたという、球団の英断にも映るからだ。
「会社のために生きるのか、自分のために生きるのか」
阪神が、クライマックス・シリーズ進出の可能性をかけ、激しい3位争いを繰り広げていた2022年の最終盤、9月28日のことだった。
藤浪の「メジャー挑戦希望表明」のニュースが、一部スポーツ紙に報じられた。
その2日後、私は富山で藤田太陽の取材を行うことになっていた。
この話題を振るのは、それこそ絶妙のタイミングだった。
「どう思います、逆に?」
自らも監督を務める「ロキテクノ富山」で、社員の一員として通常業務にもつく現状を踏まえた上で、会社員という立場での巧みなたとえを示しながら、話を進めてくれた。
「会社のために生きるか、自分の人生を生きるか。彼の場合は、阪神タイガースとメジャーリーグというものですけど、会社と個人の夢と考えれば、ですね。今の時代、サラリーマンって、その会社が一生働く場所じゃなくなっているじゃないですか」
社会の現状を踏まえた、藤田の的確な認識でもあるだろう。
日本の会社における「終身雇用制」は、年功序列の賃金体系とリンクしており、高度経済成長期は、賃金も右肩上がりで上昇した。
年功序列制とは、年次の低い若い時期には、賃金が比較的抑えられている。
その若手時代の“マイナスのツケ”を、将来的には地位と賃金の上昇という形で報うという仕組みでもあり、その「モデルケース」は、目の前の先輩たちでもあった。
ところが今や、昭和の想定のように賃金は上がってこない。高齢化社会に伴い、企業の定年も伸び、年齢に相当した「ポスト」の不足も取り沙汰されている。
つまり、すでにその「昭和の仕組み」は崩れてしまっているのだ。