小泉 なるほど。量産兵器同士が戦う、本当の戦争を描くつもりだったんだ。
太田 そうそう。ロボットを兵器に見せるためにどうすればいいのか考えたんでしょうね。だから補給の問題とかも話に出てくる。
高橋 「敵の補給艦を叩け!」。3話だっけ?
太田 そうそうそう。ザクを3機失ったから補給をくれ、というシャアの要求に対してドズルが物資の欠乏を理由に2機しか送らないところとかね。でも今日もってきたサイコ・ザクは、ザクの高機動型ですけど、これだったらありうると思うんですよ。要するにドイツの戦闘機メッサーシュミットBf109がB型、C形、E型と戦争中にどんどん改良されて、最終的にはK型までつくったのと同じです。最初の頃は450キロぐらいだった最高速度が、最後は700キロを超えるわけですよね。だからザクも改良されていって、最後にはすごいバージョンがでてくるならわかる。でも途中からドムとかゲルググとかやたらたくさん新型が出てくる(笑)。
高橋 たった1年で!
太田 たった1年でね(笑)。
小泉 まあでも、あれも第二次大戦っぽい気もします。みんな戦前から開発を始めていて、いざ戦争になると、最初はバッファローとか冗談みたいな戦闘機しか出てこなかったのが、途中からライトニングというすごいヤツもでてくる。
高橋 特に負けてる側がわけのわからない形でつくって来るわけですよ。ドイツで言えば、Bf109だけじゃなくてFw190があって、そのあとTa152が出て、Ta183までやろうとするわけですから。日本の大戦終盤の迎撃機群とかも。
太田 窮するといろいろつくりたくなってくるんですよね。
小泉 雷電の横に斜め銃をつけてみたりね。いかにも窮余の策みたいな。それでいうと、僕は冷戦を戦ったソ連の兵器の変さというのはそれに近いものがあると思うんですよ。今の世界史のなかではソ連とアメリカは対等にやっていましたと見えますけれど、現実にはどう考えてもソ連のほうが苦しかったわけですよね。
太田 当時はわからなかったですよね。
小泉 当時の日本人から見ると、ソ連というのは仰ぎ見るような大国だと思われていた。海上保安庁のOBの方に聞いた話ですが、昔、日本海でソ連船を臨検に行くと、臨検が終わって船を離れるときに、舷側のところからソ連人が「おーい」って言って、サラミソーセージみたいなのをばんばん投げてくれた。それがすごいうまかったらしい。70年代の話だから、たぶん本物のヨーロッパのサラミソーセージを初めて食べたんだと思う。それで「ソ連ってのはやっぱりすごいなー」と思ってたけど、「ソ連が崩壊した後になってから、向こうの沿岸警備隊の苦しそうな感じがはじめてわかった」と言ってましたね。
高橋 「ソ連が3種類のICBMをつくっているのは、それぞれ別の運用思想があるからだ」と西側はみていたけど、冷戦が終わって調べてみたら、実際には、設計局が単純に三つあって、それぞれに仕事を与えるために3種類つくっていただけという非常に官僚主義的な理由だった。
小泉 ロケット設計者はみんな仲悪くて大喧嘩しながらICBMをつくっていた。アメリカ人は「これは何かすごい思想があるに違いない」と思っていたんだけど、内実はめちゃめちゃ人間くさかった。