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5000円のTシャツが3万円に

 斎藤 私が今回、ぜひ聞きたいなと思っていたのは、藤原さんが「資本主義」というものをどう捉えているかです。藤原さんがデザインを手掛けるコラボ商品には、ものすごい注目が集まる。数も限られるから、その希少性が購買欲求をさらに加速させる。その意味で、資本主義にドライブをかけているなと……。

 藤原 ドライブをかけているのは、コングロマリット側じゃないですかね。僕らはあまり考えずにやっていると言うのも変だけど、面白そうだなと思ってやっている。その場限りというか。

 斎藤 自分にとってカッコいいと思うもの、面白いと思うものをつくるだけ、ということですか。

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 藤原 それだけ。だから、自分では資本主義の中にいると感じたことはほとんどないんです。違う世界のものと思っているというか。もともとブランドを立ち上げた頃なんて、みんなでお金を出し合って一枚一枚手作業でTシャツを刷っていたから、数が作れない。それが結果的に希少性に繋がって、僕らが5000円で売ったものが「あっちでは3万円で売られちゃってるぞ」なんて状態がずっと続いていました。そのあたりの循環について考えないというと語弊がありますが、「売る」ではなく、あくまで面白そうなものを「作る」ことに軸足を置いているつもりです。

藤原ヒロシ氏 ©文藝春秋

 斎藤 なるほど。逆にそれが、「こうしたら売れるのか」と周囲に広がり、藤原さん自身も“ブランディング”されてしまった。

 藤原 自分たちが意図しているものとは違うとは思っていました。

 斎藤 だから、脱成長を?

 藤原 それもあります。会社を大きくし続けることは僕には向いていないとも思いました。

 斎藤 そんな欲望を煽り続けるファッション業界の環境負荷は非常に高いですよね。そんな中、各ブランドはエシカルなほうにシフトしようとしています。藤原さんからすると、この動きはいかがですか?

 藤原 10年くらい前からみんな言い出しましたよね。たとえば当時、僕は海外のスノーボードメーカーと仕事をしていました。彼らはいち早くSDGsの考え方を取り入れようとしていたけれど、突き詰めていくと、毎シーズン新作を出すこと自体が環境に悪いという結論が見えてくる。けれど、そこに行き着いてしまうと企業として存続できないよね、と。スノーボードなんて、5年くらいはもちますから。

 斎藤 そうそう。まさにそこが矛盾なんです。

 藤原 結局、半年ごとにコレクションをやって新作を発表することにうまく理由づけして、「成長」し続けるしかなくなる。

 斎藤 私もファッションが好きなので、ファッションそのものを否定したいわけではないんです。ただ、毎シーズン新しいものをたくさん買って、毎日ちがう服を着たいのではない。そんなことをしなくてもファッションは楽しめるはず。脱成長の観点からすれば、ブランドのシーズン制をやめるとか、過剰な広告を減らすとか、手の打ちようはあると思うんですよね。

斎藤幸平氏 ©文藝春秋

 藤原 でも、斎藤さんは、そんな緩やかな手法では許さないんじゃないですか? 「SDGsは大衆のアヘンだ」と書いていますよね。真の環境破壊から目を背けるための「アリバイ作りのようなもの」だって。

 斎藤 よく読んでくださっていますね(笑)。おっしゃる通りで、本当はファスト・ファッションやコラボを禁止するくらい大胆な取り組みをしなければならないのですが、いまはエシカルを使ってビジネスの論理が加速してばかり。そんななか、大胆なことだけを言っていても波及しないので悩みます。

 もちろん、自分の中でも難しいことがあります。それこそ、藤原さんの作るプロダクトで「いいな」と思うものはあるけど、自分の価値観の中で資本主義的なものから距離を取りたい。たとえば僕が今日、藤原さんがコラボしたモンクレールを着ていたら、「え、斎藤なんなの?」ってなりますから。

 藤原 送りますよ。

 斎藤 いやいや(笑)。そういうカルチャーのかっこよさもわかるし、それを応援している人がたくさんいる中で、どのように大きな転換をできるか悩んでいます。

藤原ヒロシさんと斎藤幸平さんの対談「人新世のブランド論」全文は、月刊「文藝春秋」2023年8月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。