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 躁のスイッチが入ってしまったような感じで、急に身体が動くようになったんです。制服に着替えて、飛び降りるために屋上に駆け上がったんですが、施錠されていて扉が開かなかった。それで一度部屋に戻って「どうしよう、3階からだと死ねないかな」とか考えて。

 あとは、部屋で死んだら母が見てショックを受けるかな、とも考えました。母への復讐心はあったけど、母にそんな姿を見せたら可哀想という気持ちもあって。

 とにかくそのときは、「今やるしかない」と思っていました。それで、自宅アパートの3階の窓から飛び降りました。

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頸髄を損傷したことで運動機能に障害が

——その後、どうなったのでしょうか。

豆塚 救急車が来て、運ばれているところで意識を失いました。次に意識が戻ったときには病院のベッドに寝ていました。 

 頭を打っていたので、そのあたりは正直、記憶が混沌としていて、現実なのかそうでないのか区別がついていないんです。いわゆる「せん妄」と呼ばれる状態だったようなんですが。

 

——身体はどのような状態だったんですか。

豆塚 両手指と胸から下の感覚は完全に麻痺していました。頸髄を損傷してしまったことで、運動機能に障害が出てしまって。さらに嚥下機能(食べものを飲み込んで胃に送る機能)と心肺機能が低下して、肺炎になってしまったんです。

 高熱や痰が出て呼吸困難に陥ったので気管を切開し、喉にチューブを通して、そこから肺に直接空気を送るんですよ。食事どころか、水も飲み込めない。落ちたときになかった痛みも感じるようになってきて、高熱が出たり、呼吸が苦しくて眠れなかったり……本当に極限状態でした。

——そのあと、医者から「もう歩けないかもしれない」と告げられたそうですね。

豆塚 そうです。でも、正直ショックはなかったんですよね。すでに極限状態だったから、もはや「歩けるかどうか」は二の次、というか。

 そのときは、生きていたことに素直にほっとしていました。やっぱり私は、死にたくなかったのかもしれません。本気で自ら命を絶とうとしたのに、おかしな話かもしれないんですけど。

 この結果を憐れむ人、ばかにする人もいる。でも私は、これまで一度も飛び降りたことを後悔したことはないんです。むしろ「必然だった」というか。あの日飛び降りなかったとしたら、もしくはもっと軽傷で済んでいたら、私はまた死のうとしたと思うから。

撮影=深野未季/文藝春秋

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▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前9時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
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