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キースは14歳でヘラジカを仕留めたことも

 突然キースが、ロックバンド・AC/DCの名曲“ハイウェイ・トゥ・ヘル”を絶叫するように歌い出す。まさにこの道がそれだ、とゲラゲラ笑いながら更にアクセルを吹かす。永遠の不良少年の勢いは留まることを知らない。

 人里離れた山奥に入ったからといって、すぐにヘラジカが出てくるはずもない。当座の食事の材料は、旅の途中で調達してゆく。バギーの騒音に驚き、たまに藪から飛び立つ鳥がいる。ハリモミライチョウだ。ハトを一回り大きくしたくらいの体つきで、赤身の肉はコクがあって旨い。なんとそれを見つけたのは、このとき同行していたキースの孫だった。年齢は、まだ9歳。既に狩猟に興味を持っていて、キースの狩猟にも何度も同行しているそうだ。なんと早熟な、と感心していたら、キースは6歳で初めてのライチョウを、更に14歳でヘラジカを仕留めたとのこと。本当に彼らには敵わない。

 森林限界ギリギリの標高にベースキャンプを設営する。いつもの通り、テントは張らない。夕食は獲れたてのライチョウのソテー。ここではお約束のキャンプ飯だ。更に標高を上げ、木々が生えない山頂付近で野宿をする際の定番メニューは、ホッキョクジリスの姿焼きに変わる。40センチほどの小さな体は一食分にしかならないが、確実に獲ることのできる有難い動物だ。岩場の隙間に暮らす彼らは、たまに地上に現れては後脚だけで立ち上がって辺りを見回す。あちらに1匹、こちらに1匹と、不意に姿を見せるジリスを小口径のライフルで仕留める。日本の子供がゲームセンターでモグラ叩きゲームに興じるように、ユーコンの子供は山でジリスを撃ちながら狩りの腕を磨く。最終目標である大物が獲れるまで、こうして当座しのぎの糧を現地調達しながら、ひたすら粘るのだ。

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 翌日。森林限界の上に広がるヤナギの灌木帯を目指した。ヤナギはヘラジカの雄の大好物で、角を大きく成長させるのに欠かせないとキースは言う。ちなみに雌や子供は、もっと標高の低い水辺に暮らしている。泳ぎが得意で、水草を食べるために平気で全身が完全に水没する深さまで潜ってしまうそうだ。

 灌木帯に入ると、一面のヤナギは僕の胸の高さにまで生い茂っている。これでは銃を撃つのは難しい。見晴らしのいいポイントを目指す。生い茂る木々から一段高く突き出た岩場に到着した。バギーを停め、双眼鏡を取り出す。鵜の目鷹の目でヘラジカを探す。しかしどれだけ探しても姿は見当たらない。茫漠たる原野で、どうやったらヘラジカに巡り合えるというのか。実は、秘策がある。