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なぜ「2カ月後」にプリゴジンは殺されたのか

 今回の爆発工作を主導したのが、連邦保安庁(FSB)なのか、連邦軍参謀本部情報総局(グルー)なのかはわかりません。が、プーチン大統領の意思決定のもとで殺されたのは確実だろうと思います。浅からぬ関係にあった2人ですが、大統領としてはクーデターを起そうとした人物を見過ごすわけにはいかない。「俺に逆らったヤツをちゃんと処罰したぞ」という姿勢を示しておく必要があったんだと思います。

 プーチン氏が恐れていたのは、来年の3月18日に行われるだろう次の大統領選への影響でしょう。国内が「弱腰のプーチンには任せられない」という空気になるのは最悪です。武装蜂起の2カ月後というタイミングで粛清されたわけですが、これは、プリゴジン氏が二度と逆えないように牙を抜くための準備期間だったというだけでなく、プーチン氏が“内政モード”に入っていく時期と重なっていたとも考えられます。

 もし、仮に次の大統領選が2024年3月だとすると、これまでの通例では11月から12月初旬には出馬表明をすることになる。あと、3カ月ほどで国民に対して、「大統領選に出るぞ」と言わなくてはいけなくなるわけです。つまり、プリゴジン氏を消しておくなら今だった、ということなんじゃないでしょうか。

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バフムト戦以降、急速に存在感を増したプリゴジン氏 ©時事通信社/AFP PHOTO / Telegram channel of Concord group

 プーチン氏にとって、今回の大統領選はこれまでとは違う“大きな意味”があります。というのも今回は、これまでならば憲法上、出られなかった大統領選挙だからです。プーチン氏が初めて大統領に就任したのは2000年ですが、第2期が終わった2008年時点では憲法の規定により、連続で3期以上、大統領を続けることはできなかった。だから一度、首相に退き、後輩のメドヴェージェフを大統領に据えたタンデム(二頭)体制をとったわけです。

 一度、首相に退くというやり方は、明確に憲法の規定に抵触はしていないけれども、グレーに近い。「連続で3期やらなければいいんだろう」ということで一回、首相をはさんで6年の任期を2度務め、現在の通算4期目に至るわけです。そして、彼が心血を注いだ憲法改正キャンペーンの結果、3年前の2020年7月の憲法改正で連続3期も認められるように変えてしまいました。

 だから、通算5期目の次の選挙で、プーチンは本気で“終身独裁”を狙い始めるのだと思います。次の選挙で通れば、彼はロシア連邦の歴史上、初の連続3選の大統領になります。プーチンからすれば、「国民から俺の終身独裁が認められた」くらいに思ってもおかしくはない。来年の選挙にかける意気込みは大変に強いのだと思います。

 モスクワへのドローン攻撃が続いていることで、プーチン政権への批判が高まっているという報道もありますが、あれは「ウクライナが悪い」と言い訳ができるので大きなダメージにはならない。やはり、「プリゴジンの乱」のほうがずっと大きな問題だったわけです。

動画がバズった「プリゴジン人気」

 例えば、私も驚いたのですが、「プリゴジンの乱」のとき、ロストフの街から撤退するプリゴジン氏が熱狂的に見送られている様子が報道されました。反乱を起こした軍事会社の親分が国民にはめちゃくちゃウケている。「なんだ、この国は」と思いましたよ(笑)。それに忘れがちですが、そもそもロシアでは民間軍事会社の存在自体が違法なんですよ。