「お前は呪物を舐めているから、気をつけろ」と警告されたことも
――そのチベットの仏像は、どんな経緯で生まれた呪物なのでしょうか。
田中 その呪物にも、興味深い背景があって。チベットには、うつ伏せになって額・両手・両膝を地面につける、「五体投地」と言われるお祈りがあります。うつ伏せと歩行を繰り返し、何日も前に進み続ける。その祈りを捧げる間は、着の身着のままでお風呂にも入らないそうです。
祈りながら命を落とす人も大勢いたと聞きます。しかし、亡くなった後は“臭い”となって、生きている人に憑いて信仰を続けるそうです。
この話を聞いて、僕が持っているチベットの呪物は、五体投地で亡くなった人の遺灰を混ぜて作られたものなんじゃないかと思ったんですよね。真相はわからないのですが、その土地の文化や歴史と呪物を照らし合わせて、自分なりに背景を考察するのが好きなんですよ。
――背景が気になって、調べたり集めたりしたくなるのは分かる気がします。
田中 そう、だからどんどん増えていっちゃって。ただ、最近、呪術師の人からは「お前は呪物を舐めているから、気をつけろ」と言われています。いろんなものを集めすぎていて、危険な状態だと。
――危険な状態とは?
田中 呪術師が言うには、鎖がついていない猛獣を自宅で飼っているような状態だそうです。今はお前の言うことを聞いているかもしれないけど、その呪物たちは気分次第でいつでも手のひらを返してくるぞ、と。
――さきほど、「亡くなったときの未練が強ければ強いほど、マイナスにもプラスにも強烈なパワーが生まれる」というお話がありました。そのマイナスのパワーが発揮される可能性もある、という警告なのでしょうか。
田中 たとえば、亡くなった赤ん坊や胎児の遺灰と土やハーブなどを混ぜて作られるタイの呪物「クマントーン」は、お守りとして所有者の身を災いから守ったり、願いを叶えてくれると言われています。でもクマントーンにはマイナスのパワーもあるから、現地の人から畏怖されているんです。
タイでは妊婦が亡くなったあと、祀らずに“そのまま”にしていると、人々に災いをもたらすと言われています。過去には、亡くなった妊婦をあえてそのままにして「呪物」とし、憎い相手を呪うために使っていたとか、戦争で使い魔として相手に送っていた、なんて話もあるそうです。
――昔から、呪物にはそれだけの力があると信じられていたのですね。
田中 呪物は、お守りのように幸運をもたらしてくれるだけでなく、きっかけひとつで、想像できないような恐ろしいことを引き起こす可能性もある、と考えられている。
僕は呪物を集め始めてから、呪物コレクターとしてお仕事をいただけるようになった。ある意味、「呪物に食べさせてもらっている」状態だと思うんですよね。呪物からポジティブな恩恵を、十分に受けているというか。