「報道特集」では報道部門と制作・編成部門とを分けて検証結果を伝えた。報道局の社員・元社員を取材した結果はどうだったのか。
1999年から「週刊文春」が報じたセクハラに関する記事の重要な部分は「真実」であると認定された2003年の高裁判決や、2004年の最高裁での高裁判決の確定という2つの節目があった。それを報じなかったのはなぜなのか。TBS報道局はこの点を検証するため、当時の社会部の記者やニュース番組の責任者ら、この判決や決定を報道するかどうかの判断に直接関わる立場にあった10人全員からヒアリングを行った。
「圧力や忖度があった」という人は…
「最高裁決定の時はオウムの松本智津夫被告の一審判決の3日前だったので、特番準備などに忙殺されていてジャニー氏の裁判の記憶がない。
本社と何か突っ込んだやりとりがあれば、さすがに記憶していると思う。会社から『やるな』みたいなことを言われたり、忖度するとかはあり得ないと思う」(当時の社会部記者)
「会社の上層部や編成担当に何かを言われてニュースにしないということは一切なかった。仮にあったとしたら、逆にあえて報じていただろう」(当時の社会部デスク)
検証した結果、この件については社内からの圧力や旧ジャニーズ事務所への忖度があったと証言した人は一人もいなかったという。
「率直に振り返って、20年前はいまと社会の意識が大きく違っていて、本来はその状況に異論を唱えるべきだった社会部も男性の性被害に対する意識が低く、また週刊誌の芸能ネタと位置づけてしまったことが反省点だと考えている」(当時の社会部デスク)
TBSは在京キー局の中でも個々人の独立・自立を重んじる社風が顕著な組織だ。それゆえ、上司が何かを命令しても必ずしもその通りには進まない。特に報道局はそうした風潮が強く、上記の「圧力や忖度などなかった」という証言は信頼できると筆者は思った。
今回の検証についても、筆者が推測するには、日本テレビやフジテレビの場合、組織のトップである社長の判断などで全社ヒアリングを行い、検証番組に報道局長らが顔を出して登場したと思われる。一方のTBSはあくまで「報道特集」という看板の報道番組が中心になって、報道現場が主導する形で検証が行われたように見えた。