のめり込ませることを目的としたビジネス
現在、話が進んでいるホスト規制にしても、カモとなる女性にイケメンホストが囁く暗示は明らかにダークパターンによる騙しの構造です。カネを払う女性に優しくする言葉の中に「他の店に流れる女性は大事にできないよね」というバインドを紛れ込ませるだけで、女性はそのイケメンホストからの情愛に触れるためだけに多くの金銭を注ぎ込もうとし、高額のツケを払ってもその時間が大事に感じられ、最悪の場合、自らの身体を売ってでも愛情を失わないように誘導されていきます。
しかも、これらの推しビジネスは単にホストの問題だけでなく、投資の世界でも埋没コストを認識させないようユーザーを騙す仕組みに応用されています。いわば、推しの対象となる商品(例えば暗号資産など)は、芸能人がお薦めしているからすごい。さらにはプライベートライブに呼んであげるなどと誘導した後で、必ず儲かるだけでなく、これは革新的なお金2.0なのだ、歴史を変えるんだ、国家による中央集権から私たちは自由なのだ、他の投資商品にはない意義や夢があるのだと投資家に吹き込むことで、のめり込ませることを目的としたビジネスに変わってしまうのです。
ホストをめぐっては被害女性の告発や関連事件の多発を理由として、現行法下では貸金業法違反や刑法詐欺罪などでの立件がホスト個人ではなくホストクラブを運営している事業者に対して科すという流れになっています。問題のある勢力の関わりも常に示唆されており、来年のいまごろは、歌舞伎町に多数軒を並べるホストクラブがどれぐらい残っているのか心配されるほど、状況は悪くなってきています。
他方で、ホストクラブにハマった女性たちが溜めてしまった数百万のツケを払うのに身体を売ることで社会問題になることはあっても、おっさんがクラブの女に騙されたりキャバクラ嬢にムシられたりして消費者金融に駆け込み数百万の借金を抱えることは放置されています。このあたり、本当はこの手の推しビジネスの一種であるホスト、クラブ、キャバクラなどが持つ特有のダークパターンに嵌められた人は、男も女も平等に救われるべきだ、と個人的には思うんですけどね。
いつもやり過ぎが社会問題になっては潰されてきた風俗
疑似恋愛も夜のおかずも現実逃避も、現代社会においては合法である限り個人の行動の自由を縛ることはできませんが、結果的に、それで人生を持ち崩してしまう人たちに帰る場所はないのが本質です。何者でもない人たちが、自分の推しを愛でることで持て余した人生を慰めているのが推しビジネスの本質であって、現実に向き合われたら冷められてしまうのでどんどん推しビジネスが過激化し、より高い収益性を求め、そして社会問題となって潰される、の繰り返しになるのです。
かつて、テレホンクラブやブルセラショップが摘発されたり、出会い系サイトが問題視されて規制法が成立・施行されたりしていましたが、いわゆる生活安全と風俗との関係は、いつもやり過ぎが社会問題になっては潰される、の歴史でありました。いまのところ、ホストクラブもおなじベルトコンベアーに乗っかっていますが、その根底には人間の原罪のひとつとも言うべき性癖と、現代社会の人間の心のよりどころとする包み込むような宗教的価値観の喪失が推しビジネスという邪悪な代替物を産み出しているのではないかとさえ、思うんですけどね。