ーー1970年代に、研究者が「事故時の被曝シミュレーションをしたい」と予算要求をしたのに、「事故は起きないのになぜ事故のテーマの研究をするのか」と予算がつかなかった、というエピソードが第3章(原発はなぜ始まったか)に書かれています。まさに、安全神話のありようを端的に指し示していますね。また、福島第一原発の事故よりも前、遠隔操作ができるロボットの導入が検討され、実際に世界水準のロボットが30億円もかけて6台も作られたのに、「原発などの災害時に活用する場面はほとんどない」と採用されず、ロボットが廃棄されたり......。
青木 もし開発がすすんでいれば、事故の深刻化を防ぐことが可能だったかもしれません。こういった「過酷事故は起こらない、だから備える必要はない」という神話を「原子力ムラ」の人々が作り上げたのですが、では、ムラの住人である政(政権与党)、官(経産省や科学技術庁など)、業(電力会社や業界団体)そして学(大学の原子力研究者)はどのようにしてつながり、どのような相互依存関係を作っていったのか。関係者に粘り強く話を聞き、その成り立ちをたどっています。
そしてムラの人たちの主張の拡声器的な役割を果たしたのが大手マスコミです。彼らが大手マスコミをどのように取り込み、どんなプロパガンダを展開してきたのかについても、改めて検証を加えています。
ーー2023年の8月から、福島第一原発からの処理水の海洋放出が始まっています。これについてのメディアの報じ方もまた、検証する必要があるでしょうか。
青木 いわゆるALPS処理水について、「IAEA(国際原子力機関)が安全だと言っている、だから問題がない」と大きく報道されていますが、実際の問題点についてはなかなか報じられていないな、と感じています。X(旧Twitter)でも、「(処理水は)処理されている、だから汚れていないのだ」という書き込みがある。でもこの水は、原子炉等規制法のうえでは「放射性廃棄物」です。そういう点をきちんと指摘した報道がなかなか出てきていないな、と感じています。
2年前に刊行予定も勤務する新聞社から「許可」がおりなかった
ーー実はこの本は、2021年10月に出版することが決まっていました。
青木 はい。ところが、所属している新聞社から許可がおりなかったのです。文藝春秋から出版しようと思い、会社の「社外出版手続き」に従って申請書を出したところ、「この書籍の内容は職務である、だから他社から出版することは認められない」と言われてしまいました。これまで、この種の申請書が拒否された、という例は聞いたことがありませんでした。
最初に話したように、私はこの新聞社に所属する前から、このテーマを追いかけていましたし、この新聞社の記者となって以降も、職務以外の時間や休みを活用して取材・執筆をしてきました。だから、この本は「職務」にはあたらないと確信しています。
ところが新聞社は一方的に「職務である」と判断をくだしました。そこで文藝春秋の方が私の上司に直接会って説明をする、という提案をしてくれましたが、上司は「(会うことは)辞退させていただく」とメールしてきて、結局説明もできませんでした。