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 そもそも当の2世自身にとってみれば、生まれた直後から、自分で選んだわけでもない宗教に無理矢理入信させられるわけである。教団の教義で純粋培養するといっても、今の日本のような自由民主主義社会においては、山奥に監禁して育てるわけにもいかない。テレビも見ればインターネットもするし、近所の子供たちとも遊ぶ。ある程度自由に情報の選択ができる社会のなかで育つ過程において、2世としても「自分の家庭は一般社会とは何か違う」ということに気付き、親たちとは違って、教団を客観視する目が養われてくる。そこに親が無理矢理に矯正を加えようとすると、かえって2世は教団を恨むようにすらなる。

 安倍殺害後に注目されるようになった「宗教2世問題」とは、まさにそういった人権問題である。これが社会問題になること自体が、多くの宗教団体において「理想的教団エリートとしての2世育成」がうまくいっていないことの表れだろう。

学会に失望した芸人・長井秀和

 長井秀和という人物がいる。2000年代前半に「間違いないっ!」というギャグで有名になったお笑い芸人だ。長井は創価学会の会員家庭に生まれた2世会員で、創価学会の教育機関である創価大学を卒業している。しかし、彼は学会側が望んだようなエリート2世にはまったくならなかった。例えばテレビの電波に乗らないお笑いライブの場などでは、露骨に池田大作や創価学会を茶化す話芸を行う芸人として、一部で有名だった。

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 そんな彼は2012年に創価学会を脱会した。また2022年の東京都・西東京市議会議員選挙に出馬して市議会議員となり、現在ではカルト宗教、宗教2世問題に取り組む政治家として活動している。

『間違いないっ! 長井秀和オフィシャル・ブック』(KKベストセラーズ、2004年)

 なぜ長井は創価学会を2012年というタイミングでやめたのか。それはその前年に起こった東日本大震災が一つのきっかけだったと、彼は季刊『宗教問題』40号の取材に応じて、以下のように語っている。

 ああいった大きな災害に対して、創価学会はもちろん『弱い人たちを助ける』というスタンスを表向きは取るんですけど、実際に被災者の助けになることがどれほどできたかといえば、なんとも心もとなかった。このときに、創価学会という組織にも池田大作という人にも失望を深めたことが、退会の決断に影響しています。

 

(古川琢也「『間違いないっ!』の長井秀和が創価学会をやめて選挙に挑む理由」)