嵩原弁護士は、訴状に「昨今性的加害が大きな社会問題化しており性に関わる違法または不適切な行為は一般読者が最も嫌悪する行為の一つである」(「ミヤネ屋」より)とあることから、報道機関が名誉毀損で提訴された際に立証しなければならない「公共性」「公益目的」について、松本人志側が一部認めているように捉えられる可能性に注目した。
他方で嵩原弁護士は、松本人志側が「ない」と主張する「客観的な証拠」とは映像・写真・音声といった主観が入り込まず変化しないものを指し、人の記憶はあいまいで変化する可能性もあるため、「供述や証言は客観的証拠とはならない」と話した。
「ミヤネ屋」が示した「訴状」の評価
宮根誠司キャスターは「松本さん側の訴状を見ますと、時系列とかこと細かにその日のことが書いているわけでなく、ある意味枠組み、フレームだけの訴状に見えるが、これはひとつの裁判に向けての戦術なのか?」と弁護士らの見解を尋ねた。
「難しいところ。その日何が起こったのかはこの紛争にとってすごく大事なこと。本当に文春が12月に書いたような事実があったのかなかったのかについては、『そんな事実はまったくなかった』という場合はわかりやすいが、その点についてはっきりとは言っていない。今後の裁判の中で積み上げていくのか、あるいはそこは切り離した上で、評価している部分についての、『本人らの意思に反して』性的行為を強要したと読めるように色付けをしているところを争っているのか。この訴状からは今後のことはわかりにくい」(野村弁護士)
「今回のことで言うと、性的行為があったかなかったか、ここまではあった、ここからはなかったと先に言ってしまうと、それが裁判のベースになる。(そうなると)敵に塩を送るという状況になる。だからこの状態でまず相手の様子を見るために、あえて薄い訴状を出したということになるかもしれません」(嵩原弁護士)
野村弁護士も、一般論として訴状の段階で「手の内を隠している部分は普通ある」としながらも、「普通はこういう戦い方はしない」「こういうのが本当だったんだけど、こんなふうに書いてあるのは全然違うんじゃないですか、というやり方が一番わかりやすい。それをしなかったこと自体が逆に言うと、何かやっぱり(自分の主張を)言うことにウィークポイントがあるようにも見えてしまうのが評価が分かれるところという気がする」と気になる点をあげた。
また、嵩原弁護士は、「週刊文春」が女性に3年半裏取り取材をして20時間以上も話を聞いているのに比べ、松本人志に対してはJR品川駅で直撃取材しているほか、吉本興業の広報宛てに27時間後を回答期限とするメールを送っており、「これで十分かと言われると疑問が残る」とコメント。「A子さんに聞くのと、松本さん側に聞くのではまったく聞く姿勢が違う。これをもって十分と言えるかどうか。名誉毀損の裁判では、十分な相手方の聞き取りをしていなかったことで報道側が負けたという事例がある」と指摘した。