財部 偏差値でいうと60を超えるくらい、上位16%に入る子ですね。なぜなら、中学受験の勉強は「先取り学習」が基本だからです。小4から1学年先の内容の先取りを始め、小6の1年間で中学受験対策をします。そのため小学校の勉強は余裕で、全教科ほぼ100点で復習の必要がない子でなければ、予習中心の中学受験の勉強まで手が回りません。
さらに「先取り学習」は中高一貫校に入学した後も続きます。高2までに高校の範囲を終わらせて高3の1年間は大学受験対策をします。
「先取り学習」で疲弊する子供たち
――「先取り学習のカリキュラムが大学受験に有利だ」と考えて中学受験をする人は多いのではないでしょうか。
財部 しかし、私の実感では実際に先取り学習についていけている子は、学年の上位2割程度だと思います。全員がそうだとは言いませんが、うちの塾の中高一貫校の生徒たちを見ていると、目がよどんでいたり、疲れ切っている子が多いです。
ただ、偏差値70以上の有名中学は特別に勉強向きの子供が集まっているので例外です。そういうトップ校は自由な校風が多く、学校側が必死に勉強させたりしません。しかし、それより下の偏差値の学校は、とにかく先取りをして、学習量を増やすことで進学実績を伸ばそうとします。子供たちは早すぎる進度に疲弊し、本来の力が発揮できなくなることが多いのです。
――なぜ、そんなことが起きてしまうのですか?
財部 公立の学校で採用されているカリキュラムは、文科省のもとで様々なデータや研究結果を基に、最も多くの子供たちの成長段階に合うように作られています。それを先取りするのだから、合わない子が出てきて当然なのです。
先取り学習に適応できるのは成長が早く勉強が向いている子だけです。その意味で、中高一貫校は日本版の「飛び級制度」だと私は思っています。
「中学受験バブル」の弊害
――中高一貫校でついていけなくなった子供はどうなっていくのでしょうか。
財部 単語や公式を丸暗記すればテストの点数だけは取れたりするので、一見問題ないように見えます。しかし、それでは勉強の本質を理解できません。そのため段々と勉強嫌いになり、苦手教科に手が回らなくなっていきます。特に、数学が苦手になって文系に逃げる子は多いです。
主体的に取り組まなければ学力は伸びません。カリキュラムについていくのに必死で、勉強を「やらされている」意識になると、難しい問題に挑戦する意欲が減退していきます。
そのまま大学受験に突入すると、本来は難関国立大学に挑戦する才能を持っていたはずの子が、3教科で受けられる私立大学で妥協するケースはとても多いです。
――では、なぜ最近は中学受験をする家庭が増えているのでしょうか。
財部 中学受験について前向きな発言をしている著名人やYouTuberは、ほとんどが難関大学を卒業したエリートです。「優秀な人たちの話を鵜呑みにすれば自分の子供も難関大学へ行けるのではないか」という勘違いから、バブルが起こっていると感じます。
少数派であるトップ層のための情報よりも、ボリュームゾーンである偏差値40から60以下の子供たちのための教育指針や情報の発信が、もっと必要なのではないかと思っています。