「どんなに努力しても偏差値50にすら届かない子供もいるのが事実だと思います」――そんな辛辣な言葉を漏らすのは、ベテラン塾講師で、教育系YouTubeチャンネル「誰も言えない本音を言う塾講師」を配信する財部真一さん。

 キャリア20年、これまで1000人以上の子供たちの学習を指導してきた氏が語る、昨今ヒートアップする“中学受験”の危うさとは? 前編ではその問題から、合格を目指す親子を取り巻く環境について教えてもらった。(全3回の1回目/#2#3を読む)

ベテラン塾講師が語った、「中学受験の危うさ」とは? 写真はイメージ ©getty

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「地頭の差」に苦しむ塾講師と子供たち

――財部さんは塾講師の立場から、子供たちの「地頭の差」や、中学受験の問題点を指摘する動画を発信しています。きっかけは何だったのですか?

財部真一(以下、財部) 長年塾を経営していると、全くやる気がないのに親に通わされている子や、どう頑張っても成績が上がらない子が一定数います。「こんなに勉強を嫌がっている子の成績を上げなければいけないのか」という閉塞感がずっとありました。

 誰しも、生まれ持った能力の差、遺伝的な勉強の向き不向きがあると思います。それを私は「地頭の差」と呼んでいます。親の希望が子供の能力と乖離している場合は、塾講師や子供たちはその狭間で苦しみます。

 そんな状況に対して、「社会の教育の捉え方に問題があるのではないか」と疑問を抱くようになりました。実際にYouTubeで発信を始めてみると、同業者をはじめ共感の声が予想以上に多く寄せられて驚きました。

塾に通っても「勉強は得意にならない」

――「地頭の差」は、努力で克服できないのでしょうか?

財部 変化したケースも少しはありますが、私の経験上8割か9割は「人それぞれの限界」があると感じています。この点については、行動遺伝学の第一人者である安藤寿康氏の著書『日本人の9割が知らない遺伝の真実』が参考になると思います。私が現場で子供達を見てきた肌感覚と一致していると感じました。

「地頭の差」については、同業者から「YouTubeではオブラートに包んだ表現をしていますね」と言われます。確かに、あまりはっきりと言わないようにしているんです。なぜかというと、子供たちの人格や、可能性を全否定していると受け取られてしまうからです。

――塾の先生は、子供の地頭の良さを見抜けるのですか?

財部 小学校3、4年生の子供を少し指導すれば、「この子は偏差値40も難しいな」「頑張っても50くらいが限界かな」とすぐに分かります。子供の目を見れば、私の説明を理解できているかどうかが伝わってくるからです。そこに気がつくのは、子供の感情の動きに気を配っている塾講師だと思います。

――もし生まれ持った「地頭の差」が変えられないとしたら、世の中の親にとってはショックかもしれません。