連続テレビ小説『ブギウギ』が最終回を迎えた。

 特別、朝ドラ好きじゃないのに、なぜ一度も欠かさず観つづけたのだろう。主人公の福来スズ子を演じた趣里に惹かれたんだな。

 配役を知り驚いた。違和感さえ覚えた。私の知ってる笠置シヅ子は、中学生のころ観たドラマ『台風家族』とか、とにかく陽気でかしましい浪花のオバちゃんだったから。趣里の一種独得な個性にそぐわないと思ったのだ。

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 ところが趣里ちゃん、陽気で負けず嫌い、さらに愛嬌たっぷりな主人公を演じ関西弁も耳に心地良い。

趣里 ©文藝春秋

 出自の秘密も抱えているが、養父母には優しく育てられ、弟の六郎のことも可愛がり、花咲は落ちたが梅丸楽劇部の養成所に入所すると、持ち前の才能でめきめき頭角を現す。

 ここまでの人情噺的な展開も楽しいが、傑出したモダンなセンスの作・編曲家、羽鳥善一(草彅剛)と出会い、福来スズ子は水を得た魚のように躍動する。

 昭和の初めから、やがて日中戦争がドロ沼化し、さらにアメリカと開戦するその寸前まで、多くの日本人が“敵性音楽”のジャズやタップ、レビューに熱狂していたとは。みんなアメリカの映画やダンス、ジャズが好きだったのだ。

 最近、復刊された瀬川昌久の名著『ジャズで踊って』には、“抜きんでた笠置シヅ子”と題した章がある。

 帝劇での公演。「とにかく笠置シヅ子の出る『メーク・リズム』が圧巻で、彼女くらいミュージカルのエンターテイナーとしてのスピリットをもった人はほかにまったくなく、大阪育ちでもあるせいだろうが、舞台人としての気構えがちがうのだろう」。ホットなジャズを歌い、踊る笠置を演じた趣里は見事だ。

 アメリカとの開戦前夜、笠置は警視庁に呼ばれ、三センチのツケまつ毛を禁じられ、踊りも三尺(九〇センチ)四方以内に制限される。一般市民からは敵性歌手と攻撃する投書が殺到した。しかしジャズへの想いは消えず。敗戦後にブギの女王として君臨する。

 私は六〇年代半ばに毎日欠かさずジャズ喫茶に通っていた。スイングやブギの時代はとうに過ぎ、ハードバップやコルトレーンなどモダンジャズの全盛期だ。

 水道橋に一軒だけ、その名も「SWING」という店があり、どんなものかと入店したが、スイングは一六歳の耳には時代遅れのジャズにしか聞こえず、二度と店に行かなかった。後に、その店で村上春樹がバイトしていたと知った。

 村上の知識と好奇心のユニークさを知った。そしてスイングやブギを、笠置と同じく華奢な体で演じ切った趣里の才能を誉めたい。映画『ほかげ』では、敗戦直後の日本の底辺を生きる女を演じて圧巻。趣里からは目が離せない。

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『ブギウギ』
NHK総合 放送終了
https://www.nhk.jp/p/boogie/ts/NLPYVZYM29/