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水族館のスターだったジンベエザメの死

 今回は冬の災害だったから、南方系の生物が全滅したが、夏の発災なら北方系や深海の生物が全滅してしまう。

 高橋係長は「北の海に生息するホッケやカサゴの仲間は、年間を通して10度前後にしなければなりません。深海に棲むカニ、エビ、イソギンチャクは2~4度です。夏に機械が壊れれば1~2日で死んでしまうでしょう」と指摘する。

 動物園の生き物なら環境の変化になんとか耐えられても、飼育環境が生死に直結する水生生物はそうはいかない。水族館が被災した時のもろさが浮き彫りになった。

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 魚類の生死で最も話題になったのはジンベエザメだ。イルカと並ぶのとじま水族館のスターだった。

ジンベエザメのモニュメント。水族館のスターだった(のとじま水族館)©葉上太郎

定置網に迷い込んだジンベエザメを捕獲し、飼育していた

 自然界のジンベエザメは体長が12~13mにもなる世界最大の魚類だ。巨大な水槽を悠々と泳ぐ姿には迫力があり、見ていて癒されるという来館者も多かった。「人間はああした形と色あいを本能的に好きになってしまうのかもしれません」と高橋係長は話す。

 全国では、沖縄美(ちゅ)ら海水族館(沖縄県本部町)、いおワールドかごしま水族館(鹿児島市)、海遊館(大阪市)と、のとじま水族館の計4館でしか飼育されていない。東京など遠方から繰り返し訪れる人や、4館全部回るという「ジンベエファン」もいた。

 のとじま水族館で飼育が始まったのは2010年だ。対角が約20mある八角形の「ジンベエザメ館 青の世界」(深さ6.5m)が完成し、ちょうど能登半島沖の定置網にジンベエザメが迷い込んだのを捕獲した。

定置網で捕獲されたジンベエザメは「第三ジンベエ丸」と名付けられた巨大な容器で運ばれる(のとじま水族館)©葉上太郎

 ジンベエザメの生息域は熱帯から亜熱帯にかけてが中心だ。「能登半島沖には暖流の対馬海流に乗って訪れ、7~10月に漁師さんから『定置網に迷い込んだ』と連絡が入ることもあります」と高橋係長は話す。

 水槽の幅が35mもある沖縄美ら海水族館では繁殖を目的とした飼育ができるが、のとじま水族館の水槽では無理だ。そこで、体長4m程度で捕獲された個体を2~3年育て、6mになる前に海に戻してきた。適当な大きさの個体が定置網に入れば、入れ替えをする。