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シュワルツェネッガー主演は想定外だった…低予算映画『ターミネーター』大ヒットの意外な背景 町山智浩『〈映画の見方〉がわかる本』より

source : 提携メディア

genre : エンタメ, 映画

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「あれを見て、みんな驚いて、『ミミズに芝居させることができるんだから、俳優の演出もできるだろう』ということで監督を任されたんだ」

夢にまで見た監督第一作は『殺人魚フライングキラー』(81年)。ジョー・ダンテ監督のヒット作『ピラニア』(78年)の続編で、今度は翼の生えた魚が空を飛んで美女を襲うのだ。

「プリプロダクションはすでに終わっていて、僕は現場に行って演出するだけだった。でも、脚本もクリーチャーも何もかも最低だった」

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プロデューサーは『エクソシスト』(73年)の亜流『デアボリカ』(73年)、『アマゾネス』(73年)に空手ブームをくっつけた『空手アマゾネス』(74年)、『JAWS/ジョーズ』(75年)の亜流『テンタクルズ』(77年)など、二番煎じ映画で悪名高いイタリアのオヴィディオ・G・アソニティス。彼はキャメロンが撮影したフィルムを自分の住むローマで勝手に編集して関係のない裸の女性の映像などを挟み込もうとした。

絶望続きのローマで見た悪夢

キャメロンはたった一人でローマに行って現地のスタッフたちと闘ったが、結局押し切られてしまった。だから彼は『殺人魚フライングキラー』を今も自分の作品だとは思っていない。

「ローマで僕は人生最大の疎外感を味わった。イタリア語はわからないし、金はないし、おまけに食あたりまで起こした」

そして悪夢を見た。炎の中から金属の骸骨(がいこつ)のようなロボットが立ち上がる映像だったという。そのイメージからキャメロンは物語を膨らませていった。『ターミネーター』へと。

作業BGMは『惑星』の「戦いの神・火星」

「他人の脚本ではダメだ」

キャメロンはついに『ターミネーター』のシナリオを書き始めた。士気を高めるため、ホルストの組曲『惑星』から勇壮な「戦いの神・火星」をエンドレスで聴きながら机に向かった。

『ターミネーター』の設定は、レーガン政権の対ソ強硬策で核戦争の危機が高まっていた1982年当時の状況を反映している。核戦争からアメリカを防衛するため、NORAD(北米防空司令部)はサイバーダイン・システム社が開発したコンピュータによる全自動防空ネットワーク「スカイネット」を採用する。