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シュワルツェネッガー主演は想定外だった…低予算映画『ターミネーター』大ヒットの意外な背景 町山智浩『〈映画の見方〉がわかる本』より

source : 提携メディア

genre : エンタメ, 映画

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筋肉スターのエゴに懲(こ)りたのか、マイク・メダヴォイから『ターミネーター』の主役にアーノルド・シュワルツェネッガーを薦められたキャメロンは、絶対に嫌だと断った。

目立たない容貌の俳優を探していたが…

ターミネーターはもともと人間の中に紛れ込ませる刺客として作られたので、あまり目立たない容貌の俳優、たとえば『U・ボート』(81年)のユルゲン・プロホノフ、または『殺人魚フライングキラー』に出演して友人になったランス・ヘンリクセンが想定されていた。

キャメロンはヘンリクセンをモデルに自分でイメージボードまで描いていた。しかしメダヴォイは「もっと知名度のある俳優」が必要だと主張して、元フットボール選手のO・J・シンプソン(!)を推薦した。そして、ターミネーターと戦う戦士カイル役にシュワルツェネッガーを推したのだ。

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アーノルド・シュワルツェネッガーはオーストリアのアルプス山中の小さな村に生まれ、ボディビルのヨーロッパ・チャンピオンになると、22歳で渡米、俳優を目指したが、きついオーストリア訛(なま)りが直らず、芽が出なかった。

35歳にしてやっと『コナン・ザ・グレート』(82年)でハリウッド大作の主役の座をつかんだが、腰布一枚で剣を振り回すだけのコナンでは俳優として認められなかった。シュワルツェネッガーにしてみれば、ここできちんとセリフもある『ターミネーター』のカイル役がどうしても欲しかった。

「おしゃべりなターミネーター」に辟易

キャメロンとシュワルツェネッガーは一緒にランチをとった。「一発殴られる覚悟で断るつもりだったんだ」。キャメロンは言う。「でも、貧乏だったからシュワルツェネッガーに奢(おご)ってもらった。情けなかったよ」

シュワルツェネッガーは愛想よく『ターミネーター』のシナリオを絶賛した。彼がおしゃべりなことはまだ知られていなかったので、キャメロンは驚いた。シュワルツェネッガーがふかす葉巻の煙で気分が悪くなったキャメロンは「頼むから黙ってくれないかなあ」と思いながら、いつもの癖で手元の紙に思わず相手の似顔絵を描き始めた。描きながら、ふと気づいた。……イイ顔をしてる……。