おもしろいのは、①で格差があったからといって、それが②の格差には必ずしも通じないことです。財産の分け方が不平等であったとしても、みんなにありがたい気持ちが残る相続もあります。逆に、財産が平等に分けられたのに、モメて嫌な気持ちが残る相続もあります。
はたして、2つの「相続格差」のどちらが重要なのでしょうか?
私は、②の「相続格差」を重視すべきだと思います。
相続が終わったあとで、私に向かってぼそっとつぶやいた方がいました。
「こんなにモメるんだったら、相続財産なんてなくてもよかった」
このひと言がすべてを表していると思います。もちろん、お金や不動産を引き継がなくてもよかったわけではないでしょうが、そのプラスよりも家族がモメたマイナスのほうが、大きなストレスとなって嫌な気持ちが残ってしまったのです。
①と②の最大の違いは、①は目に見えるけれども、②は目に見えないものだという点です。目に見えるものも大切ではありますが、人の幸せはそれだけでは測れません。むしろ、目に見えないものが大切なのです。
相続は公平性や節税だけでは解決しない
では、目に見えない「相続格差」を、どのように解決していけばよいのでしょうか。
世の中では、税理士というとお金の勘定ばかりしていると思われがちです。しかし、相続ほど人間の心が大切なものはありません。亡くなった方が築き上げた財産を、子孫にどのように分けていくかというのは、単なるお金の移動以上に重要なことと考えます。
私は相続専門の税理士として、数多くの相続の場面に立ち会ってきました。もちろん、財産の分け方をアドバイスすることはありません。それができるのは弁護士資格を持った人だけであり、税理士がそれをやると法律に違反してしまいます。あくまでも、こうすれば節税できるといった税務上のアドバイスをしたり、遺言書の作成のお手伝いをすることで亡くなった方の意思を伝えたりしています。
そうした業務を通じてつくづく感じたのは、相続の公平性や節税ばかり考えていても、それだけでは解決しない事柄が数多くあるということです。実際には、どうやっても相続は公平になりませんし、税金を安くするだけではいい相続にはなりません。いかに人間関係に配慮して、いい提案ができるかが大切なのだと実感しています。