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小西 あれは大阪のある老舗のホテルに提案したもので、諸事情で実現はしなかったのですが、5000円のランチビュッフェを売るのに、1万円プレゼントするというアイデアです。一見、常軌を逸してると思われそうですが、100万円予算で100食1万円付にできるなら、食べたら儲かるのだからSNSは絶対バズるし、メディア取材だってくる。ウェブ広告やちょっとしたPRキャンペーンをやってもすぐ数百万円はいきますから、その広告効果を考えたら安いものです。

けんすう PR施策として考えると、すごく安いですよね!

イノベーションを生むアイデアの狙い目とは?

小西 けんすうさんがサードドアをひらくアイデアのコツとして、普段から意識していることはありますか。

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けんすう 「都合の良いものを考える」ですかね。イノベーションって相反する要素――普通はトレードオフ状態のニーズが同時に満たされたときに生まれるものです。例えば、ユニクロのヒートテックは、寒さを解決したいのと、オシャレしたいという2つがぶつかり合っていた問題を、ヒートテックがあれば寒い日でも薄着で自分のオシャレができる、と解決したわけです。

小西 確かにかけ合わせからアイデアは生まれますもんね。ところでけんすうさんが思っているアイデアの狙い目ってありますか?

けんすう氏

けんすう ある分野でイノベーションが今まで起こせなかった理由が「技術」か「法律」のどちらかなら、狙い目だと思っています。ライドシェアが分かりやすいですが、現行の日本の法律ではダメですが、もし解禁されたら絶対に多くの新しいサービスが出てきます。法律の改正や、生成AI などの新しい技術にもチャンスが潜んでいるイメージです。

小西 本当にその通りで、先日、最近まちなかでいっぱい走っているLUUPの創業チームのひとりと話したんですが、あれは法律上絶対に無理だと思われていたものを突破して生まれたビジネスです。「どうやってやったの?」と聞いたら、「地道に潰しました」と。国交省とか警察を説き伏せられるんだと心から感心しました(笑)。

けんすう すごいですよね。でも20代の起業家がそれをできたってことは、他の人でもきっとできるはず。

小西 なにがしかの突破口は必ずあるものなんですよね。壁が立ちはだかっていても、諦めなければ別のルートが見えてくる。最近僕は「なんで小西さんは、ずっとそうやってクリエイティブをやり続けられてるんですか?」って聞かれたんですが、ある意味「サードドアがどこかにある」と強く信じてるからなのかもしれません。

 正攻法でやるとすごくお金がかかるし想定内の結果だというものを前に、クリエイティブの力で風穴をあけられて、「これで一挙に解決できるじゃん」というアイデアを一生懸命探し続けてきたように思います。今日は自分の仕事を総括して見つめ直す機会にもなり、すごく刺激的でした。ありがとうございました!

けんすう こちらこそありがとうございました!

(六本木蔦屋書店にて)

『すごい思考ツール』(小西利行 著)
『物語思考』(けんすう[古川健介] 著)

小西利行(こにし・としゆき) 
POOLinc.Founder、コピーライター、クリエイティブ・ディレクター。博報堂を経て、2006年POOLinc.設立。言葉とデザインでビジョンを生み、斬新なストーリーで世の中にムーブメントをつくり出している。主な仕事に「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」「PlayStation」「モノより思い出。」などの1000を超えるCM・広告作品、「伊右衛門」「こくまろカレー」などの商品開発、ハウス「母の日にカレーをつくろう」、スターバックス「47JIMOTOフラペチーノ」など多数のプロモーション企画も担当。著書に『伝わっているか?』『すごいメモ。』『プレゼン思考』『売れ型』などがある。

けんすう(古川健介) 
1981年生まれ。起業家、エンジェル投資家、アル株式会社代表取締役。浪人時代に受験情報掲示板「ミルクカフェ」を開設。在学中に、レンタル掲示板「したらばJBBS」を運用するメディアクリップの社長に就任。同システムは後にライブドア社に売却。新卒でリクルートに入社後、起業してハウツーサイトの「nanapi」をリリースし、2014年にnana     piはKDDIへM&Aされる。翌2015年にKDDI傘下に設立されたSupership社の取締役に就任。2018年にアル株式会社を創業、マンガ情報共有サービス「アル」を手がける。現在、きせかえできるNFT「sloth」、成長するNFT「marimo」などを手がけている。著書に『物語思考』がある。