『ともぐい』で第170回直木賞を受賞した河﨑秋子さんが、9月5日発売の週刊文春(9月12日号)から、小説「夜明けのハントレス」の連載をスタートします。

 北海道を舞台に、大学生のマチが狩猟に出会い、その魅力に惹かれていくという物語。若い女性が狩猟をする困難や、現代における狩猟の意味にも迫ってゆきます。

 連載開始に際し、河﨑さんに作品への思いを伺いました。

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河﨑秋子さん

――今回なぜ、狩猟という題材を選んだのですか?

 もともと、「身体的にも精神的にも強い主人公」の物語にしようと担当編集者と話していて、男女差が関係ないスポーツをイメージしながら構想を練っていました。そんな中、OSO18をはじめとするクマによる被害が全国的に増えていたり、鹿の増加で農業被害が出ていたりという記事を目にすることが増え、現代のハンターたちのことを調べるうちに、この世界にも男女関係なくいろんな入り方があると感じて、狩猟を題材にしようと決めました。

――タイトルの「ハントレス」は「ハンター」の女性形です。いまは女性の猟師も増えてきているようですが、女性にとってハードルは高くないのでしょうか。 

 たとえば、私が働いていた畜産の現場では、体力面以外では男女の差を意識することはさほどありませんでした。動物にとっては、人間の性別よりも、その人のパーソナリティや動物の扱い方のほうが問題ですからね。ましてや狩猟では、野生動物にとって、命の駆け引きをする相手が男であろうが女であろうが関係ありません。その点ではとてもシンプルだと思うんです。

 反面、やはり女性が狩猟をする際に周囲と軋轢が生じることはあると思います。女性が猟銃免許を取ろうとして「嫁の貰い手がなくなるからやめてくれ」と言われたという話も聞きますし……。そういった女性にまつわる困難に加えて、ハンターのなり手不足や増加するクマ被害、野生動物との向き合い方など、今現在の狩猟をめぐる問題も、いろんな切り口から深めたいと思っています。

イラストレーション・西川真以子

――マチは札幌在住の大学生です。そんな彼女がどのように狩猟の世界を突き進んで行くのか楽しみです。

 私はハンターではないので、「狩猟ってどうやって始めたらいいの?」「ライフルって日本で使えるの?」という初歩のところから、マチと一緒に始めるつもりで書いています。マチの他にも、強くてかっこいいベテランのおばあさん猟師も出てくる予定です。いろんな角度から狩猟の魅力を描きたいと思っています。

【第1回あらすじ】
札幌の大学に通うマチは、恋人の浩太の家で狩猟雑誌を見つけて手に取る。父は札幌に本社をおく会社の創業家一族で、母はアルペン競技の元オリンピアン。恵まれた環境で育ち、陸上長距離から転向したトレイルランニングも趣味で続けているが、なにか物足りなさを感じていたマチは、それまで見たことのなかった狩猟の世界に惹きつけられる――。

イラストレーション・西川真以子

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夜明けのハントレス 第1回

夜明けのハントレス 第1回