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 いや、抜け出せないのは子供だけではない。むしろ、YouTubeに依存しているのは、親のほうである。子供たちがYouTubeを見ているあいだは、親は育児から解放される。この解放感には抗しがたい力があり、ついつい子供にYouTubeを見せてしまう。

「30分だけ」とか「1時間だけ」とか、時間を決めて使っていた時期もあったが、そのルールもいつしか失われ、下手をすると家にいるあいだずっとYouTubeをつけっぱなし。私が法事などを終えて帰ってきても、子供たちはiPadに釘づけで挨拶をしようともしない。さすがにイラッとして、「YouTubeばっかりはよくないよ」と注意したら、「じゃあ、あなたが子供と遊んでやってね」と背後から妻の冷ややかな声が響く。 

2017年からシングルファザーになった池口龍法さん(撮影:新潮社)

 私も、疲れた体を押してでも幼い子供と遊んでやるべきだと頭では理解しながら、YouTubeに子供を任せてホッと一息つきたいという欲望に、しょっちゅう打ち破られた。白旗をあげてしまうと、あとは楽なものである。YouTubeの音が家庭ににぎやかに響き、一日がおだやかに過ぎていく。現代では、「子はかすがい」ではなく、「iPadはかすがい」なのである。

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「今まで十分YouTube見たからしばらく見んでもええやろ」

 しかし、こんなルーズな生活習慣を続けていたら、子供はどんな風に成長していくだろうか。いい未来は見えなかった。「またYouTubeばっかり見て!」と子供を責めて改善をうながしたが、大人でさえYouTubeを見始めたら関連動画をたどっていくらでも時間を溶かすのに、小学校低学年や幼稚園の子供が、時間を決めてYouTubeを見るなどどうしても無理な話である。

 いっそ取り上げようと決めた。

 何度も修行生活に入っている私は、人間というのは環境が変わっても順応して生活できることを知っている。要らないものを断捨離すれば、やがて心が穏やかになることを知っている。

「今まで十分YouTube見たからしばらく見んでもええやろ」と告げた。

 子供たちは「友達はみんな見てるのに……」と悲しそうだったが、譲らなかった。ついでにテレビやゲームの時間も極力減らし、親子が会話する時間を増やした。そして、寝不足にならないように、決まった時間に寝て、決まった時間に起きるように心掛けた。生活のリズムを整えていくことが、娘の不登校を解消するためのいちばんの薬にちがいない。そう言い聞かせながら、一日一日を過ごしていった。