旧国名を冠している駅の名は少なくない。具体的にいえば、「上総一ノ宮」「安房鴨川」みたいな駅のことだ。同じ地名は日本中あちこちにあり、その地名だけを駅名にすると区別できずに紛らわしい。なので、頭に旧国名を頂くことで、間違えちゃったりしないようにしている、というわけだ。

 駅が名付けられた時代にはスマホの乗換案内のようなものはなかったが、もしも同じ名の駅がいくつもあったら、青海に行こうとしたら青梅だった、みたいなトラブルが日常茶飯事になっていたかもしれない。

 そんなことはさておき、駅名に頂かれている旧国名でとりわけ多いのが、武蔵国だ。武蔵国は東京、埼玉、そして神奈川県の一部、つまり日本で最も人口が集中しているエリアなのだから、駅の数も多い。必然的に武蔵○○駅も多くなるというわけだ。

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 そして、武蔵○○駅がさらに特に多く集まっているのが、JR南武線である。なんと、武蔵小杉駅から武蔵中原駅、武蔵新城駅、武蔵溝ノ口駅と4連発。これではかえってややこしいのではないかと思うくらいだ。

 この南武線武蔵4兄弟のなかで、いちばん知られているのはやはり武蔵小杉駅だろう。東横線と南武線、湘南新宿ラインや横須賀線が乗り入れて、駅の周りにはそびえ立つタワマンの森。ここ数年、良くも悪くも注目を集めることが多い駅のひとつだ。

 が、そんな武蔵小杉駅の陰に隠れてはいるけれど、武蔵溝ノ口駅の存在を忘れてはならない。

JR南武線“ナゾの途中駅”「武蔵溝ノ口」には何がある?

JR南武線“ナゾの途中駅”「武蔵溝ノ口」には何がある?

 武蔵溝ノ口駅は、南武線と東急田園都市線(東急は溝の口駅)が交差するターミナルだ。

 他にも南武線には登戸駅や稲田堤駅、分倍河原駅のように、都心から郊外に伸びてくる路線と交差する駅がある。これらの駅の存在こそが、南武線の存在意義といっていいくらいだ。そうした意味合いにおいて、最も歴史が古い、つまり南武線の存在意義といちばん密接な関係にあるのが、武蔵溝ノ口駅なのである。

今回の路線図。羽田だろうが成田だろうが、空から首都圏にやってきたとき、どちらの空港からも「逗子」という町を目指す電車が走っている

 武蔵溝ノ口駅とその周辺、かつて溝ノ口村といった一帯が特別な地域だったということは、歴史も証明してくれる。多摩川沿い、東西に細長く広がる川崎市にあって、その中部の中心は長らく武蔵溝ノ口。武蔵小杉がまだまだ工業地帯一色だった頃から、繁華街として開けていたのは、溝ノ口だったのである。

 そんな武蔵溝ノ口、ただ田園都市線と南武線の乗り換えで通り過ぎるだけというのはあまりに惜しい。いったいどんな町なのか、歩いてみなければならない。

 そういうわけで、南武線に乗って武蔵溝ノ口駅にやってきた。