2022年、日本の文化や社会について論じた本が韓国でヒットした。「日本という鏡を通して韓国を知る」ことを目的に書かれた本だ。

 東京で18年間暮らした経験を持つメディア人類学者の金暻和さんによって書かれたその本は『韓国は日本をどう見ているか メディア人類学者が読み解く日本社会』(牧野美加訳/平凡社)というタイトルで日本でも刊行された。ここでは本書より一部を抜粋して紹介。

 おひとりさま大国、日本。韓国ではなんでも「一緒にする」のが当たり前だというが、日本では食事や外出などは「一人でする」のが当たり前になっている。そんな慣習がコロナ禍以降の社会に与えた影響とは……。(全4回の3回目/続きを読む

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 2000年代初め、日本を旅行中に東京のあるラーメン店に入って驚いた。仕切り板で区切られた一人用の席が劇場ふうに配置された、ほかの食堂にはない造りだったからだ。有料自習室やインターネットカフェを思わせる独特の光景は、韓国ではなかなかお目にかかれないものだった。

写真はイメージ ©︎AFLO

 今は韓国でも、いわゆる「ひとり飯族」が増えた。コロナ禍以降は、各席に仕切り板の設置された飲食店も少なくない。だが当時は、韓国では一人で食堂に入る客はまだ少数で、一人分を注文すると、迷惑な客だと言わんばかりの冷たい対応をされることもあった。韓国では「ひとり飯族」として肩身の狭い思いをしていたので、一人でも気楽に食べられる日本のラーメン店に妙に感動した記憶がある。

「一人でする」が基本の日本、「一緒にする」が基本の韓国

 最近は韓国でも「ひとり飯」「ひとり酒」「ひとり旅」など、一人で行動する「おひとりさま主義」がひそかなブームとなっている。コロナ禍以降、何事も一人でする傾向が強まっているともいう。だが、やはり韓国社会は「一緒にする」が基本ではないだろうか。一人暮らしの様子を紹介するテレビ番組でも、出演者はひっきりなしに友人に連絡し、一緒に食事をし、一緒に旅行に出かける。最終的には、誰かと一緒に行動してこそ意味がある、との結論に至る。そういう点から見ると、韓国のおひとりさま主義は、あれも一緒に、これも一緒にと、「一緒にする」をそれとなく強要する慣行への反動からきているのではないかという気もする。

 一方、日本は何事も一緒にする文化ではない。韓国と日本、どちらの国でも会社勤めの経験があるが、昼休み前の社内の雰囲気はまるで異なっていた。韓国では、社外の人との約束が入っていなければ同じ部署の同僚と食事をするのが一般的だ。午前の業務が終わるころから「今日は何食べようか?」という言葉が当たり前のように飛び交う。

 日本では多くの場合、一人で食事を済ませる傾向がある。昼休みの時間になると、各自「食事にいってきます」と言って席を立つ。もちろん、同僚と一緒に食べることもある。「今日、一緒に食べましょうか?」と、あらかじめ誘っておいた場合だ。一緒に食事をするのがデフォルトではないということだ。そういう雰囲気なので、食堂でも、各自食べた分を支払う「割り勘」がすんなり定着したのだ。