1ページ目から読む
3/5ページ目

母親は生後1年間は片時も赤ん坊を腕から離さないから、赤ちゃんはとてもおとなしい。何か不具合があれば、小さくうなるか、体を動かせば、母親はすぐに気づいてくれる。だから、人間の赤ちゃんのようにけたたましく泣いて、自己主張をする必要はないのだ。

でも、ゴリラの成長は早い。乳離れをして5歳になればもう体重は50kgを超える。お乳を吸っている間は肛門の周りの毛が白く、後ろ姿ではっきりわかる。離乳する頃になるとこの白い毛が消えて、目立たなくなる。母離れの時期が到来するのである。

1歳過ぎから少しずつ始まる「母離れ」

実はこの母と子の別れは、母親によって周到に準備されているのだ。母親は子どもが1歳を過ぎると、子どもを父親のシルバーバック(背中の白い成熟したオス)のそばに連れていく。そして、子どもがお父さんの白い背中に興味を示して遊んでいるすきに、子どもを置いてそうっと離れ、ひとりで採食を始める。

ADVERTISEMENT

子どもはお母さんがいないので、最初はきょろきょろ辺りを見回してその姿を探すが、シルバーバックのそばには同じように母親に置いてきぼりにされた子どもたちがいる。すぐに、それらの子どもたちに誘われて遊び始める。やがて、母親がいなくても気にしなくなり、自分からシルバーバックのそばにやってきて遊ぶようになるのだ。

離乳すると、それまでお母さんのベッドで寝ていた子どもゴリラは、お父さんの大きなベッドのそばに自分の小さなベッドを作って眠るようになる。シルバーバックは自分のところにやってきた子どもたちに実に寛容で、背中を滑り台にされたり、頭を叩かれたりしても決して怒らない。じっと動かずに子どもを遊ばせ、時折グフームと低くうなるぐらいだ。

ただ、子どもたちがけんかをして悲鳴を上げたりすると、間髪入れずに太い腕で押さえつけて止める。その仲裁がまことに見事だ。けんかを仕掛けたほうを止め、体の大きいほうを抑えるのである。決してえこひいきしたりしない。だから、子どもたちはけんかを止められているのだと納得し、ますますシルバーバックを頼るようになる。