「政治家に会ったり、ボランティア活動も10年以上やっているし、(日本社会からも)評価されているんじゃないか。感謝状とかもらっているし」

 すでに難民申請を複数回、不認定にされているにもかかわらず埼玉県川口市で暮らし続けるクルド人男性のBさん。彼がそれでも日本で生活を続けたい理由とは? 移民問題に詳しいジャーナリストの三好範英の新刊『移民リスク』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©AFLO

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「難民申請5回で20年在留」クルド人男性のBさん

 彼の事務所は、川口市北東部、埼玉高速鉄道線の戸塚安行駅から10分ほど歩いた場所にあった。住宅地、畑、林が混在する地域で、大きな看板を掲げる事務所は遠くからでも分かった。周りのヤード(資材置き場)も所有しているという。

 まず、彼の会社の概要について聞くと、「雇っているのは20人位。日本人6人。あとキューバ、ブラジル、パキスタン、ウズベキスタン人。在留特別許可の人、普通のビザ(この場合は在留資格の意味)の人といろいろ。仮放免の人はアルバイトの形にして、ずっとは雇わない。彼らが自分の生活費を稼ぐくらいは、入管も見逃している」

 現在30歳代初めの彼が、日本に来た経緯は、「最初に日本に来たのは2002年3月か4月。6月か8月にいったん帰り、母、兄と、2004年9月11日に一緒に来た。兄はトルコで4か月間逮捕された。それで2回目の日本入国の時は、兄は偽造パスポートで日本に入ってきた」とのことだった。

 その後、家族一緒に難民申請を繰り返し4回不認定となり、5回目を行っていた。また、この間、裁判所に難民不認定処分取消訴訟を起こし、最高裁まで争ったが敗訴している。彼は退去強制令書を発付されながら日本に残留している「送還忌避者」の一人である。

「私は株主になっているだけで、解体業の会社は奥さん名義でやっている。難民申請は5回目を出したきり、入管からはインタビューにも呼ばれていない。結婚して9年たつが、妻とは日本で知り合った。妻が14歳、僕が17歳の時。妻はオヤジが日本人の日系ブラジル人。子供は娘10歳、7歳、息子4歳がいて、僕以外は定住者の在留資格がある」

 2023年2月6日に起きた、ガズィアンテップ市北西を震源地とする地震の話題になった。

 彼はいかに被災者救援に尽力したか、熱を込めて語った。