2019年4月。27歳の迅斗さんは昇進した。その5日後、もともと朝型生活の迅斗さんが、初めて朝ベッドから起き上がれず、会社に遅刻。
「おかしい」と思った迅斗さんは、その日のうちに近所の心療内科を受診。「適応障害」と診断された。
その後も、数週間ほどは薬を飲みながら出勤したが、朝起きられない日が続く。
次の診察で休職を強く勧められた迅斗さんは、休むことを決断した。
「危険な状態です! 今すぐ休んでください」
1ヶ月半の休職後、迅斗さんは問題の上司と離れ、部署を異動して復帰。それでも体育会系の体質は会社全体に染み付いており、迅斗さんが抱える悩みの根本解決にはならなかった。
「もともと大好きだった車が嫌いになりそうで、今の会社にこのままいていいのだろうか? 定年まで機械設計エンジニアで生き続けるのか? という葛藤を、毎日のように繰り返していました」
そんな時、迅斗さんが所属する部署ごと、中部地方の会社に出向する命令が下される。
出向する前に「東京モーターショー」への出張があった迅斗さんは、帰りの新幹線の中でぼんやりと、「本当にこのまま出向していいのだろうか? 逃げ場がなくなるのではないか……」と考えていた。
ふと思い立って、出向予定先の中部地方の会社名を検索してみると、社内のいじめにより1人の社員が自殺に追い込まれたというニュースが目に飛び込んできた。迅斗さんは目の前が暗くなる思いがした。
その翌朝、目覚めると38度以上の熱があるかのように体がだるく、思うように動けない。熱を測ってみると平熱だったが、起き上がるのもやっとな状態だったため、会社を休んだ。
土日を経て月曜日にはなんとか出社したが、仕事中に涙が止まらなくなってしまう。
他の社員に変に思われないように、なるべく1人でできる仕事を黙々とこなし、終業時間までやり過ごすと、退勤後に心療内科に駆け込む。すると、「危険な状態です! 今すぐ休んでください」と言われ、「うつ病」と診断される。
この日、迅斗さんはお気に入りの青い車の中から大好きだった母方の祖母に電話をかけ、「もう限界……」と泣きながら伝えた。80代の祖母は優しい声で、「よく頑張ったよ、帰っておいで」と言った。
2019年11月、迅斗さんは2度目の休職に入った。