「嫁入り」「女性は家に」はいつから?

――それ以上はネタバレに(笑)。

西條 あ、そうでした! 危ない、危ない(笑)。とにかく、歴史において何度も繰り返されているこの問題を、一度小説に落としこんでみたいと思っていました。書いてみて、あらためて現代にも同じことが言える、普遍的な問題であることがはっきりした気がします。

 離婚は、ここ何十年かで増えたイメージがありますが、資料を読んでいると江戸時代もなかなか多かったようです。結婚しても、3年くらい子供ができなければ家を追い出されてしまったり、家柄にもよるでしょうが、価値観や性格が合わないことももちろんあったでしょう。面白いのは、「嫁に入る」とか「女性は家にいるもの」という感覚は、実は明治時代以降くらいのものではないかということ。江戸時代にあっても、武家の場合には「結婚=家と家のもの」という考え方が重視されていたでしょうが、町人の家の場合にはもう少し緩かったようなんですよね。昔だから、男尊女卑の社会だったのでは? というのは思い込みに過ぎないとわかり、そんな意外性があったからこそ書きたいと思いました。

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――収録されている6編は、どれも違う切り口で「離縁」を扱っていますね。テーマ選びも秀逸で、最初の一編「祭りぎらい」では、浅草三社祭が離縁の種になったり、次の「三見の三義人」は200年前に「海」が質入れされたことをきっかけとした訴訟問題、「身代わり」は評定所のお偉方が訴えられてしまい……とバラエティ豊かです。テーマはどのようにして考えているのでしょうか。

よもや「三社祭」が離縁のきっかけに…… ©時事通信社

西條 やはり資料を読んでいて面白いと思った部分を膨らませていくことが多いのですが、中にはちょっと違う入り方をするテーマもあります。たとえば、海について扱った「三見の三義人」は、一時入っていた海洋関係の研究会がありまして。

――研究会?

西條 趣味ではなく、ある作品を書くための取材として入れていただいていたのですが(笑)。オンラインで行われる月に一度の会合に、1年半くらい欠かさず出ていました。海洋関係、船関係のことをとにかく広く扱っているのですが、そこで聞いた海が質入れされるお話が面白かったので、書いてみました。

 日頃、ニュースを見ていて思いつくこともあります。そもそも私、自分が時代ものを書くことになるなんて想像もしていなかったんですよ。