ドラマや映画、小説では「くっつかない」男女も増えてきた

――女性に限りませんが、いつの時代も長い人生の中でいろいろな選択を迫られますよね。たとえば、狸穴屋の女将の桐は離婚を7回経験しています。それでも彼女は、再婚への気概を失っていない。

西條 江戸ではなく、どこか地方の条例だったと思うのですが、実際に「離縁は7回まで」というお達しが出たらしいんですよ。それだけ離縁が多かったのだと思いますが、よもや上限が設けられるとはおかしいですよね(笑)。 

 でも、現代でも子どもを何人産むのか、逆に産まないのか、そもそも籍を入れるか事実婚かなどは本当に個人の自由で、その人にしか決められないものじゃないですか。今も昔もいろいろな人がいて当たり前。

ADVERTISEMENT

 話は逸れますが、少し前まで、小説に限らずドラマや映画でも、男女がいれば必ずと言っていいほど恋愛関係になっていた。でも、最近は変わってきましたよね。必ずしもくっつかなくていいし、たとえば男女が仕事上の信頼関係や友情で結びつき、そこに恋愛感情はないという描写も増えてきました。作者としては、登場人物たちを無理にくっつけなくてよくなったことで選択肢が広がり、書きやすくもなりましたし、一読者/一視聴者として作品を楽しむときにも、読みやすく、観やすくなったような気がします。

『初瀬屋の客』も、さまざまなキャラクターが懸命に目の前の相談ごとに応えようと奔走しますが、はっきり言ってしまえば、その中で恋愛模様が描かれるわけではありません。でも、それぞれのキャラクターの成長だったり、互いに築き上げていく信頼関係など、見どころはちりばめられたと思います。ぜひ、狸穴屋の仲間たちの日常を楽しんでいただきたいです。

初瀬屋の客 狸穴屋お始末日記

初瀬屋の客 狸穴屋お始末日記

西條 奈加

文藝春秋

2025年3月5日 発売