パッチワークのように見える畑
少しずつ大地の起伏が大きくなって美瑛にさしかかる。パッチワークのように見える畑が見える。
列車は美瑛駅でしばらく停まり、発車して30分ほど走るとラベンダー畑駅に着く。ラベンダー畑駅到着直前は車窓右側に注目。青紫色の丘が見えてくる。ちょっと離れているせいか、そんなに広い面積には見えない。ラベンダーの花に囲まれたいなら降りよう。実際、ほとんどのお客さんがここで降りて、車内はガラガラ、ほぼ貸し切り状態になった。
ラベンダー畑駅からラベンダーで有名なファーム富田までは丘を登って数分の道のりだ。ファーム富田で散策とランチを楽しんだあと、富良野へ向かうなら13時40分発、15時44分発の「富良野・美瑛ノロッコ号」がある。旭川に戻るなら16時42分発だ。ラベンダー畑駅は観光のための臨時駅で、他の列車は停まらないので注意。ただし、ラベンダーが開花ピークを迎える6月末から8月中旬にかけては快速「ふらの・びえい号」も走るし、混雑時は普通列車も臨時停車する。
「富良野・美瑛ノロッコ号」の指定席は少なく、自由席も混雑するそうで、往復とも「富良野・美瑛ノロッコ号」の乗車は難しい。自由席でもいいから乗ってみたい、と思うなら、ラベンダー畑~富良野間が比較的空いていてオススメだろう。
景色の良いローカル線は存廃論議が
それにしても、「富良野・美瑛ノロッコ号」が今年も走ってくれて安心した。機関車のDE15形は1976年に除雪車として製造された。御年42歳。客車もほぼ同じ歳。1980年前後に製造された普通列車用の赤い客車を1999年にトロッコ形に改造した。いつ引退宣告されてもおかしくないほどのご老体だ。
厳冬期に釧網本線を走った「流氷ノロッコ号」は機関車の老朽化のため2016年に運行を終了した。「流氷ノロッコ号」の後継はトロッコではなく、普通列車用のディーゼルカーを装飾した車両の「流氷物語号」にとどまった。機関車が老朽化している「富良野・美瑛ノロッコ号」も同様の運命かもしれない。
そうでなくとも、北海道の鉄道はいろんな意味で心配だ。JR北海道の経営問題で、景色の良いローカル線は存廃論議が起きている。新幹線と安全施策に予算を取られ、観光列車まで手が回らないという状況だ。2台あった蒸気機関車のうち、1台は保安設備を載せる資金がなく、東武鉄道に貸し出されてしまった。
ただし、見かたを変えれば、そんなにたいへんな時期にもかかわらず、JR北海道は「富良野・美瑛ノロッコ号」「くしろ湿原ノロッコ号」「SL冬の湿原号」を走らせてくれている。専用車両ではないけれど「流氷物語号」もある。根室本線の釧路~根室間では、普通列車を観光列車に見立て、景勝地で速度を緩め、外国語を含めた案内放送を実施する。家計は苦しいけれど、心は豊かに過ごしたい。そんな願いが込められているようだ。
寂しいニュースが続くJR北海道にとって、観光列車は明るい話題。まさに希望の光だ。この夏は、北の大地の列車旅を楽しもう。
写真=杉山秀樹/文藝春秋